2009年5月31日日曜日

"Lead but hedge..." クリントン政権時のスタンスの延長線上にあるオバマ米大統領の核軍縮政策

オバマ米大統領が4月に、プラハでの演説で
「核兵器のない世界」を目指すことを表明してから
核軍縮の機運が高まっているといわれています。

しかし、「核兵器ゼロ」という長期的な方向性が示されはしたものの、
米国の核兵器政策の中身が、どのようなものになるのか?
…まだはっきりとしたことは言えないというのが、
現状ではないかと思われます。

今年8月に米国の「核態勢見直し(Nuclear Posture Review=NPR)」が
発表されるとの噂であり(本当に8月にNPRが出されるのかどうか?
見通しは、まだ、不透明のようですけど)、NPRが出されれば、
オバマ政権の核兵器政策の姿が見えてくることでしょう。
つまり、NPRが出されて、はじめて、
オバマの「核兵器ゼロ」を本格的に評価できると言えます。

さて、これから出されるNPRに、大きな影響を与えるであろう
報告書が、5月の初頭に公表されています。
米議会によって指定された委員により構成される戦略態勢委員会
(Congerssional Commission on U.S. Strategic Posture)
の中間報告書です。

米国防長官に、NPRを今年中に実施し、議会に報告書を提出するよう
求めているのは、08会計年度国防授権法なわけですが、
08会計年度国防授権法には、同時に、戦略態勢委員会の設置について
定めた規定も盛り込まれています。
08会計年度国防授権法に基づき設置された
戦略態勢委員会が、核兵器政策を含む戦略態勢についての
見直しを実施し、5月に大統領や議会などに
中間報告書を提出したというわけです。
以下のHPから報告書の要約と全文を入手することができます。
http://www.usip.org/strategic_posture/final.html

NPRが出される前ではありますが、
戦略態勢委員会の報告書も、また、
オバマ政権の核兵器政策の中身を知る
糸口となるだろうと考え、その内容を見てみたいと思います。

ただ、報告書は180ページほどあるため、
いつものように逐一翻訳して…というのは、さすがにきつい。
ですので、これまでとは趣向を変え、
報告書の内容と論点を要約してまとめるとともに、
エディが思うところも書いてみます。

まず、注目したい点は、
戦略態勢委員会の委員長に指名されているのが、
元米国防長官であるウィリアム・ペリー氏(民主党)であるということです。

ご存じの方も多いと思いますが、ウィリアム・ペリー氏は、
ヘンリー・キッシンジャーやサム・ナン、ジョージ・シュルツ氏らと連名で、
「核兵器ゼロ」の議論の火付け役ともいわれる論文を、
米紙ウォールストリート・ジャーナルに寄稿していることで知られています。

ウィリアム・ペリー氏が委員長だということは、
戦略態勢委員会の報告書も、きっと、
核軍縮に向けた意欲的な内容になっているだろうとの
期待を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

が、残念ながら、戦略態勢委員会の報告書は、
「オバマ演説で核軍縮の機運は高まった!」
と色めき立っている人の失望を誘いかねない、
極めて現実的な内容となっています。

I. "Lead But hedge(核軍縮をリードするが、抑止もする)"

オバマのプラハ演説は、
言っていることが二律背反しているのでは、
との印象を抱かせるようなものでもありました。

つまり、オバマ大統領は、
「核兵器のない世界を目指す」
と一方では言いながら、同時に、
「安全で、かつ、確実であり、効果的な核戦力を維持し続ける」
とも主張しているわけです。
「オバマは核兵器をなくしたいのか、持ち続けたいのか、どっちだ?」
と混乱してしまいそうな、この矛盾したように聞こえる言い分が、
オバマ政権の核兵器政策を分かりにくくさせていると思われます。

しかし、オバマ大統領の、この、二律背反していると
感じさせる主張は、実は、クリントン政権の時から変わらない、
一貫した米国の核兵器政策の
基本的なスタンスであるということのようです。
戦略態勢委員会の報告書の、
ウィリアム・ペリー委員長により書かれた序文で、
この点について触れられています。

ペリー委員長によると、クリントン政権のNPR(1994年)で示された
冷戦終結後の米国の核兵器政策を支える考え方が…

"Lead but hedge"

…なのであり、オバマ大統領のプラハ演説も
この考え方の延長線上にあるのだそうです。
"Lead but hedge"を字面通り邦訳すると、
「リードする。しかし、保証もする」
となるのでしょうか?

"Lead"とは、米国が、
核兵器の過剰備蓄によりもたらされる危険を減らしていくための、
協調的な取り組みを主導していくことであり、
核軍縮と核拡散の防止を
米国が先頭に立って進めていくということのようです。

"Hedge"とは、急な情勢変化により、
事態が悪化するというようなケースに対応するため、核戦力を保有し、
核抑止力を維持しておく(=核兵器による保証)
ということのようです。

なお、戦略態勢委員会の報告書によると、
この"Lead but hedge"という考え方は、クリントン政権だけに限らず、
ブッシュ政権時においても、ロバート・ゲーツ氏が国防長官に就任した際
(ゲーツ氏はオバマ政権でも引き続き国防長官を務めていますが)、
その意義が再確認され、ブッシュ政権の核兵器政策にも、
引き継がれることになったのだそうです。

オバマのプラハ演説も
①「米国は核兵器のない世界の実現に向けた、確実な一歩を踏み出す」
=Leadの部分と
②「米国は安全、かつ、確実で、効果的な核戦力を保有し続けなければならない」
=Hedgeの部分の二つが柱となっていることから、
クリントン、ブッシュと続いた前政権の考え方と、
根源的な部分では、何も変わっていないと言えそうです。

日本の論調の中には、オバマ演説のleadの部分にだけ注目し、
過剰すぎるほどの期待を寄せたり、
逆に、Hedgeの部分にだけ注目し、
失望感をあらわにしたり、冷淡な批判をしていたりするものも
見られますが、Leadの部分とHedgeの部分を個別に分けて捉えた評価は
あまり意味がないでしょう。

むしろ、LeadとHedgeが有機的に連関し、
オバマ政権の核兵器政策の全体を構成している
と捉えた方がよいと考えます。

II. 拡大抑止(Extended Deterrence)の要請

戦略態勢委員会の報告書によると、
オバマ政権の"Lead but hedge" policyとは、
将来的に核兵器の廃絶を可能にさせる環境を醸成するための
取り組みを主導していくと同時に、
核兵器が存在し続ける限りは、米国「単独での」
核の武装解除はせず、「強力な核抑止力」を維持する
…と、説明されています。

では、オバマ政権が上記のような
"Lead but hedge" policyを採用するのはなぜなのか?
戦略態勢委員会の報告書は
以下の5つの理由を挙げています。

①核テロリズムの脅威
②核拡散の脅威

…以上の二つは、クリントン政権のNPRでも言及されていたものですが、
今もなお、これらの脅威の阻止・防止のための
包括的な取り組みを継続すべきだとされています。

①と②の脅威は、近年、特に、非国家主体
核兵器を入手してしまうという事態を防ぐ
という意味合いで、強調されてきたものでもあります。
こうした観点との関連で、核廃絶推進派の中には、

「現在は核テロリズムが最大の脅威であるといわれているのだから、
テロリストのような非国家主体には核抑止力は意味をなさず
核物質をテロリストの手に渡らないようにするというのであれば、
核兵器そのものを完全に廃棄した方が有効ではないか」

…と主張する者もいます。

確かに、テロリストに核抑止力は通用しないとの主張は、
まったくその通りだと思います。

戦略態勢委員会の報告書においては、
「予測可能性(predictability)」という言葉が、しばし、登場します。
つまり、冷戦期の核抑止力における、いわゆる「核の平和」という状態は、
核攻撃に対して、報復攻撃が行われ、
その結果として、双方に甚大な被害が生じるという
「予測が可能」であったからこそ成立していたといえます。

一方、テロリストが相手だと、こうした予測は成立しません。

テロには自爆テロもあるように、テロに至る行動の心理の中には、
「報復に対する恐怖心」がない場合もある。
ですので、核兵器を保有し、
核攻撃に対する第二撃能力を持っているからといって、
このことが、核テロを起こそうとするインセンティブの
抑止にはならないでしょう。
また、テロリストが核兵器を入手し、それを用いてテロを起こしたとして、
では、それに対する報復を、そもそもどこを、そして、誰をターゲットに
行えばよいのか分からないということも起こり得るでしょう。

従って、①と②については、核テロの「事前の阻止」が重要なのであり、
核不拡散措置の強化が求められるということになるのでしょう。
つまり、"Lead"としての核兵器政策の側面が強く、
核物質の削減と厳格な管理を通じた核テロの阻止・防止という意味で、
核軍縮と軍備管理による核不拡散政策が要請されるということになります。

しかしながら、"Lead"だけでなく"Hedge"も必要となるのは、
結局のところ、核抑止力は依然、必要であるとの認識があるためです。

①と②に加えて、戦略態勢委員会は…、

拡大抑止の要請

…をオバマ政権の核兵器政策を構成する要素の一つとして挙げています。
つまり、米国の同盟国を守るための核抑止力のことであり、
北東アジアと中東の核危機が念頭に置かれています。
戦略態勢委員会の報告書によれば、
オバマ政権は、同盟国を核の傘で守る拡大抑止の責務を
負うことが望ましいと考えられているようです。

これとの関連で注目したいのは、戦略態勢委員会の報告書の…
A quick survey of the potential nuclear nuclear candidates in Northeast Asia and the Middle East brings home the point that many potential proliferation candidates are friends and even allies of the United States. A decision by those friends and allies to seek nuclear weapons would be a significant blow to U.S. interests.(p. 10)
…という記述です。
上記は、ざっと訳しますと、
北東アジア、ないし、中東において、核兵器開発が可能な
潜在能力を有する国の多くは、米国の友好国、もしくは、同盟国なのであり、
そうした友好国・同盟国が核兵器保有の道を選択してしまったら、
それは米国の国益にとって、深刻な打撃となる
…といったことが指摘されている部分です。

つまり、中東と北東アジアの米国の友好国・同盟国で、
核兵器開発が可能である国が、
核兵器を持ってしまうというシナリオを避けるためにも、
米国が拡大抑止の責務を負担する必要があるということのようです。

北朝鮮のミサイル・核問題との関連で、日本の核武装論を主張する者もいますが、
日本の核武装は、米国にとって望ましいことではない。
日本を含む同盟国、ないし、友好国が
核兵器を保有する必要がないよう、米国が拡大抑止をしてあげる…
戦略態勢委員会の報告書の上記のような指摘は、
つまるところ、そう言っているように聞こえます。

さらに、拡大抑止の責務を米国が負担する必要がある
とする考え方は、核の先制不使用(Non-first Use, NFU)と
ミサイル防衛をめぐる議論にも影響しています。

NFUは、インドや(まったく信頼されてはいませんが)中国が
宣言しているもので、
日本の川口順子とオーストラリアのギャレス・エバンス両元外相が
共同議長を務める核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)も
2009年から12年までのスパンで達成すべき短期的目標として
「米国のNFU宣言」を提案しています。

が、戦略態勢委員会の報告書は、
米国がNFUを宣言すれば、
拡大抑止で守っている同盟国に、不安を抱かせたり、
また、核抑止力には、生物・化学兵器による攻撃の抑止という意味での、
潜在的な機能もあるのであって、
米国がNFU宣言をすることにより、
そうした意味での核抑止力の機能が損なわれかねない
…などの理由を挙げ、消極的な論調を展開しています。

一方で、ミサイル防衛について、
戦略態勢委員会の報告書では、
"limited threat(限定的な脅威)"に対処するもの
という点が強調されています。

つまり、戦略態勢委員会は、
中・短距離ミサイルに対するミサイル防衛の役割を支持する一方で、
長距離ミサイルに対しては、北朝鮮やイランのような国を
想定して、システムの有効性を確保すべきであり、
ミサイル防衛は、これ以外の脅威に対処できるものではない(incapable)
と指摘しています。

同時に、戦略態勢委員会の報告書は、
ミサイル防衛が"limited threat"に対処するものであるということを
ロシアと中国に分かってもらえれば、
両国の米国に対する懸念を払拭できるとともに、
ミサイル防衛に関連する米国の戦略に理解を示してくれるだろう
との見方を示しています。
さらに、ロシアと中国も巻き込んだ、協調的なミサイル防衛の枠組みを
構築していくことが必要であるとも提案しています。

さて、オバマ政権の核兵器政策を構成する残り二つの要素として、
戦略態勢委員会の報告書が挙げているのが、
④中国と、⑤ロシアです。

戦略態勢委員会の報告書は、
中国とロシアに対して抱いている懸念として、
両国が兵器の近代化を進めようとしていることを指摘しています。
ロシアの場合は、通常戦力における米国とのギャップを埋めるため、
非戦略核戦力(NSNF)の役割を重視している点にも注目しています。

結局のところ、現在の安全保障環境を鑑みた場合、
米国が将来的に、無期限に(indefinite)に、核抑止力を維持し続ける…
という結論が導かれることも、一つの選択肢として、
あり得るのだということになっています。

III. 核兵器の装備更新時期というタイミングでの核軍縮論

オバマの「核兵器ゼロ」は、どういうタイミングで表明されたものなのかを
知ることも重要でしょう。

世界中にある核兵器の9割を、米ロが占めているといわれていますが、
米ロが保有する核兵器のかなりの量が寿命を迎えており、
廃棄が待たれている時期が、今であるわけです。
つまり、廃棄が必要な核兵器が大量にあるのであれば、
当然、核兵器の大幅削減も視野に入ってくる。
オバマの「核兵器ゼロ」は、そうした状況の中で表明されたものである
という点を、念頭に置いておく必要があります。

廃棄せずとも、寿命を迎えた核兵器を復元し(Remanufacture)、
寿命を延ばせばよいではないか(Life Extension)
という考え方もありますが、
戦略態勢委員会の報告書によると、
廃棄が待たれている核兵器を復元し、寿命を無期限に延ばせる
可能性は、わずかであるとされています。

核兵器の多くは復元を想定し、設計されていないということが、
その理由です。
過去に製造され、現在、寿命を迎えた核兵器を復元するとなると、
すでに時代遅れとなった機資材や技術を複製することにもなりますし、
設計上の制約故に、現在の先進技術を活用することもできない
…と、戦略態勢委員会の報告書は、
RemanufactureとLife Extensionの問題点を指摘しています。

ただ、先ほども触れたように、
米国は同盟国を守るための拡大抑止の責務を負担することと、
ロシアと中国の動向を踏まえた核抑止力の維持の必要性が
留意されていました。
従って、既存の核兵器の多くが寿命を迎えることに便乗して、
核兵器の廃絶という段階に一気に飛ぶということにはならず、
オバマ大統領が何度も口にしているような、
「安全、かつ、確実で、効果的な核戦力」を維持するための
研究・開発は、これからも必要になる。

そのためのアプローチとして、
戦略態勢委員会の報告書で挙げられているのが、
核兵器の装備"Refurbishment(更新)"
と"Modernization(近代化)"です。

戦略態勢委員会の報告書によると、
「更新」と「近代化」という選択肢は、
既存の寿命を迎えた核兵器の単純な造り直しなのか、
はたまた、まったく新しいものに造り替えるのか
といった二者択一的な、凝り固まったものではなく
(=not stark alternative)、今ある核兵器の部品や設計を生かしながら、
必要に応じて、新しい部品や設計も組み合わせていくというような
やり方もあり得るということが示唆されています。
つまり、個々の核兵器の装備状況を踏まえた、
ケース・バイ・ケースの判断に基づいて、
核兵器装備の「更新」と「近代化」を
進めていくことが必要であるということになっています。

一方で、性能と安全性をさらに引き上げるため、
既存の核兵器の設計から、まったく新しくするというアプローチについて、
戦略態勢委員会の報告書は、
こうしたアプローチが実際に採用された事例は
見当たらないと指摘しています。
これとの関連で思い出されるのが
「信頼できる代替核弾頭(Reliable Replacement Warhead, RRW)」
の開発計画です。

オバマ政権はRRW開発の停止を公式に決定していますし、
米議会もまた、かねてからRRWの開発を
支持してきてはいませんでした。
米国は1993年以降、現在まで核実験モラトリアムを継続していますが、
実験を経ていない核弾頭を開発することで、将来的に核実験を行う
必要に迫られることになるのではないかとの懸念があることに加え、
核不拡散に向けた取り組みにおける米国の信頼性を損なう恐れもある
…というのが、米議会のRRW不支持の理由です。

半面、オバマ政権がRRWの開発停止を決定したことに対する戸惑いは、
まだ見られると戦略態勢委員会の報告書は指摘しています。
つまり、RRWの開発を停止することが、
核兵器の安全性と信頼性を高めようとする試みの妨げになるのではないか
…との不安がある。
また、戦略態勢委員会の報告書によると、
一口にRRWといっても、人によって定義が違うということも、
混乱を招く要因になっているようです。
ある者は、RRW開発計画とは、トライデントに搭載されている
老朽化したW76核弾頭の再整備計画だと語り、
またある者は、米国が保有する核兵器すべてを新しくし、
性能と安全性を向上させるための包括的な計画だと説明し、
さらにある者は、核弾頭の製造プロセスを単純化するとともに、
老朽化により安全性が低下した危険な核物質を減らしていきながら、
核兵器の生産複合体を転換していくというのがRRWであると考えている。

結局のところ、どういう意味でのRRWの開発が停止されたのかは
はっきりとせず、核兵器の信頼性と安全性の向上の
必要性が否定されているわけでもないので、
何かしらの形でのRRWが再び姿を現し、
開発計画が進められることもあり得ると考えられます。

IV. CTBTの批准については、賛否分かれる

RRWの開発計画は、新たな核実験実施の
必要が求められる可能性も高く、
米国が包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准すべきかどうか
という議論にも関わってきます。

オバマ大統領はプラハ演説で、 CTBTの批准を、
議会に呼び掛けると表明し、関心を集めました。
RRWの開発停止を公式に決定したオバマ政権が、
引き続きCTBTの批准を目指すというのは、
論理的にも自然な流れだと思われます。

一方、戦略態勢委員会の報告書では、
米国がCTBTを批准すべきかどうかをめぐり賛否が分かれ、
まとまった見解が出せず、
ひとまず、CTBTの批准賛成派と反対派の意見を
列挙するという形にとどめています。
以下は、戦略態勢委員会の報告書で列挙されている
CTBTの批准賛成派と反対派の見解です。

<賛成派>
①過去に実施された核(爆発)実験で得られた知識と
1993年以降、核実験モラトリアムを継続してきた間も、
94年から行われてきた核備蓄管理計画
(=Stockpile Stewardship Program)により、
追加的な核実験を行わずとも、米国が保有する核兵器の
安全性と信頼性を維持することができるとの確証が得られている。
従って、CTBTを批准しても、米国の核兵器政策に影響はない。

②CTBTを批准したとしても、脱退もできる。
核兵器の安全性と信頼性を確保するため、
将来的に核実験が必要であるのなら、脱退すればいいだけだ。

③CTBTという条約レジームの制約が国際社会にないことの方が、
米国に対する脅威が拡大する可能性が高い。
実際、米国科学アカデミー(National Academy of Science)は
2002年に、以下のように指摘しているではないか。

「CTBTの制約を免れ、秘密裏に核兵器開発が
進められることよりも、CTBTという規制の枠組がないまま、
敵対国が核実験を重ね、高度に洗練された核兵器を入手するという
ことの方が、米国にとっては最悪のシナリオだ。
CTBTには監視制度があることに注目すべきだ」

④CTBTの国際監視制度
(=International Monitoring System, IMS)は
多様な検証手段を備えており、効果的だ。
小規模な地下核爆発実験の探知能力も大きく向上しており、
IMSで探知できないようなレベルの核爆発実験を秘密裏に行ったところで、
それにより見出せる軍事的価値はほとんどない。

⑤米国がCTBTを批准することで、
核拡散防止条約(NPT)が第6条で、核兵器保有国に課している義務を
果たし、核軍縮で主導的な役割は担っていることを示すことができる。

⑥米国の批准により、他のCTBTの批准を保留している国に
影響を与えられる。

<反対派>
①米国が核実験をしなければ、核不拡散が進むということが
立証されているわけではない。
米国が核実験を行っていたときには、南アフリカが核武装を放棄したし、
核実験モラトリアムを継続している間には、インドやパキスタン、
北朝鮮などが核兵器開発を進めたではないか。
米国がCTBTに批准しても、北朝鮮やイランは
核開発計画をやめないだろうし、
そもそも、初歩的な核兵器開発であれば、核実験は必要なく、
CTBTを批准しようがしまいが、関係ない。

②CTBTが発効せずとも、米国はCTBTの文言に従うことができる。
CTBTの発効には、北朝鮮やイラン、パキスタン、インド、中国、
イスラエル、エジプトなどの多くの国の調印と批准も必要となるが、
その可能性はゼロに近い。
結果的に、上であげたような国々が制約を免れている一方で、
米国はCTBTの規制に縛られるということになりかねない。

③CTBTは核実験とは何なのかを明確に定義していない。
米国の定義は厳格で、核実験を「核出力を生ずる実験」と定義している。
一方で、他国は、数百キロトン以上の核出力が伴うものを核実験である
と解釈している。
こうした解釈に便乗し、ロシアと、おそらく中国も
核出力5キロトン以下の低出力核実験を行っている。
(※1キロトン=TNT1000トン)

④CTBTの問題点は、「ゼロ出力実験」以外は禁止
ということでは、締約国が合意できないという点だ。
米国科学アカデミーによると、
核出力が1、2キロトン以下の低出力の地下核実験は
探知不可能だという。
そうであるのなら、たとえCTBTが「ゼロ出力実験」以外の実験を
禁止したとしても、秘密裏に低出力核実験を行う国を制止できない。

⑤CTBTの核施設検証についての規定も
修正の余地がある。
検証運営委員会の委員は51人で構成されているが
欧米諸国出身の委員はたったの10人しかいない。
しかも、CTBTは各国に、50平方キロメートル以下の敷地であれば、
検証の対象から外せるよう宣言できることも認めている。

⑥核実験をせずに、核兵器の安全性と信頼性を
維持するのには、技術的なリスクが伴う。
高度な科学技術に基づく核兵器開発計画は
何度も実験を重ねる必要がある。
CTBTを批准することで、核兵器の性能と
安全性の向上のための開発計画の道が閉ざされてしまいかねない。

なお、戦略態勢委員会のウィリアム・ペリー委員長は、
個人的な見解であると断った上で、
CTBTを批准した方が、米国の安全保障の強化につながり、
核不拡散問題における米国の主導的な立場を鮮明にできるとし、
CTBTの批准に肯定的な見方を示しています。(Chaieman's Preface, p.xiii)

興味深いのは、低出力核実験についての
CTBT批准賛成派と反対派の評価(=双方の④の論点)の違いです。

賛成派は、CTBTのIMSで探知できないようなレベルの
低出力核実験など、大したことはないと言わんばかりであり、
一方で、反対派は、IMSで探知できないような
低出力核実験を秘密裏に行われては、たまったものではないと、
低出力核実験にそれなりの深刻性を見出しているかのような
主張を展開しているように見受けられます。

ここで思い出されるのは、5月25日に北朝鮮が実施したという
核実験に対するオバマ政権の対応です。
「挑発に見返りなし」と強気のオバマ政権は、
北朝鮮程度が行う低出力核実験など、取るに足らずと
考えているようにさえ見えます。

ブレア米国家情報長官によると、
今回の北朝鮮の核実験による爆発規模は数キロトンで、
北朝鮮が核兵器保有国としてのステータスを得られるほどの
成果は、今回の核実験でも見られなかったという評価です。
2006年のときの北朝鮮の核実験は、
1キロトン未満の小規模で、失敗したとの見方が強いですが、
2006年と今年程度の核実験を北朝鮮が行ったところで、
米国が動揺するような事態にはならないと考えているようです。

つまり、オバマ政権は、CTBT批准賛成派の④の考え方に近く、
軍事的成果がほとんど見られないレベルの
低出力核実験を過度に深刻視して、そうした低出力核実験を
制止できないからとして、CTBTに批准しないという選択を取るよりも、
探知能力が向上した検証制度を備えるCTBTを批准し、
CTBT発効への動きを加速させることで、
CTBTの検証制度をできるだけ早く機能させ、
軍事的成果につながる規模の核実験を、しっかりと監視の下に置きたい
…という立場なのではないかと推察されます。

V. 核不拡散と核の軍備管理が密接に関連

オバマ大統領がCTBTの批准にこだわるのは、
CTBTが備えるIMSをできるだけ早期に機能させたいからではないかと
考えるのには、それなりの理由があります。

ロシアと始めようとしている新たな戦略核削減の合意枠組み交渉など、
核軍縮」の話をする際、オバマ大統領は必ず、
効果的な検証」という言葉とセットにして語っているためです。
つまり、CTBTのIMSに着目した場合、
CTBTもまた、核軍縮のプロセスを確実にするための
効果的な検証枠組みの一つとなると考えられるのでは…
というわけです。

さて、核軍縮といった場合、
「核兵器を何発減らすのか」というような、
削減数にばかり焦点が当たりがちですが、
核軍縮を語る際、数はそれほど重視されていない
という点に注意が必要かもしれません。

もっと言えば、先にも述べましたように、
米ロ(だけではありませんが)が保有する核兵器の多くが
寿命を迎えているため、装備更新を進めるにしても、
現存の核兵器の大幅削減は、避けられない状況にあるわけです。
今や、冷戦期の核軍拡競争時代とは思考が異なり、
核兵器をたくさん持つということに、軍事的価値を見出してはおらず、
規模が小さくなった核戦力で、
いかにして効果的な核抑止力を機能させていくのか
…という点に関心が移っているわけです。
この点は同時に、日本の防衛戦略とも大きく関わってくるため、
見逃すことはできません。これについては、後述します。

戦略態勢委員会の報告書における以下の指摘は、
核軍縮を進める前提として、厳格な軍備管理が重要である
ことを示している部分ですが、
核軍縮論議の焦点を、削減される数に置いていないということが
示唆されていると感じる指摘でもあります。

...Numbers are not the main point-stability,
security, verification, and compliance are.(p.66)
数が重要なのではない。安全、かつ、確実で、
検証が伴う形で管理され、ルールが履行されているという
ことの方が重要なのだ

つまり、核の厳格な軍備管理と核の拡散防止は密接に関連しており、
核不拡散を求めるのであれば、
まずは核の軍備管理の強化が必要である
…という考え方のようです。
そのためにも、NPTやCTBTなどの国際的な条約レジームを
最大限に生かしていくというオバマ政権の立場は、
前のブッシュ政権とは大きく異なる部分でもあります。

戦略態勢委員会の報告書は、
米大統領が自身の「強大な権限(bully pulpit)」を行使してでも、
核不拡散のための具体的な政策を提示すべきだと強調しています。
特に来年開かれるNPTの再検討会議は最大の山場であり、
NPTの再検討会議で米国がリーダーシップを発揮すべく、
今から準備を進めるよう勧告しています。

その他、核不拡散の分野で、
米国がリーダーシップを発揮すべき課題として、
戦略態勢委員会の報告書は、以下を挙げています。

①国際原子力機関(IAEA)の強化
②核弾頭の情報と備蓄量についての透明性を確保するための
グローバルな取り組みを、米国が率先垂範し、主導していく
③核兵器開発に使われる兵器用分裂性核物質の生産を禁止する条約の
成立を目指す
④不安定な核施設に補完されている核物質の管理強化、
ないし廃棄を進める脅威削減計画のための予算の増大
⑤拡散リスクを最小限に抑えることを目指す
将来の核エネルギー生産に向けた国際的な取り組みの進展

以上の点について、差し当たり注目したいのは①と⑥です。
①と⑥はNPTの検証システムが抱える問題と
NPTをめぐる交渉の折りに顕在化する意見の対立とも
関わっているためです。

①の「IAEAの強化」といった場合、そこには二つの意味があります。
一つは、IAEAという機関自体の強化であり、
もう一つは、IAEAに与えられている権限の強化です。

NPTは締約国に、IAEAが実施する保障措置
(=平和利用を目的とした核物質の軍事目的転用を防止するために
行われるIAEAの査察などの検証活動)
の受け入れを求めています。
ただし、検証の対象になるのは
締約国が「申告した核物質」に限定されているため、
未申告の核物質を用い、秘密裏に核兵器が進められた場合、
イラク(しかもNPTに加盟しながら)の核兵器開発の例のように、
それを防ぐことはできないという事態にもなり得る。

「NPTは加盟国の核兵器開発さえとめられなかった」

…と批判される所以は、NPTの検証システム自体にあったわけです。

1997年には追加議定書が採択され、IAEAに未申告の核物質を使った
原子力活動が行われていないかどうか確認するための
権限が与えられますが、追加議定書に参加する国を
増やし、普遍化できるかどうかという問題が、依然、残されています。

また、核兵器開発に必要なノウハウや知識が広く
普及してしまった現在、秘密裏に行われる核兵器開発を
阻止するためにも、IAEAにどれだけ踏み込んだ査察権限を与えるのか
…という点は、今も重要な検討課題です。
昨年、フォーリン・アフェーアーズ誌に掲載された
「核兵器ゼロの理論」でも、以下のように指摘されていました。

NPTの根本的な弱点は、核兵器の製造を可能にさせる濃縮ウランとプルトニウムの生産が、民生用の原子力開発のためであると言ってしまえば、許されるということだ。これまでずっと、民生用であれば許されるという考え方に、疑問符が付けられることはなかった。原子炉を運営するための能力を、核兵器開発にも転用するのは、技術的に難しいというのが実情であったためだ(そして、核保有国は、そうした転用技術の大部分を秘密にしてきた)。しかし、状況は一変してしまった。遠心分離機によるウラン濃縮や、原子炉から取り出した使用済み核燃料からプルトニウムを分離するという技術は、今や、広く知れ渡っている。壊滅的な結果をもたらす爆発を引き起こす兵器は、濃縮ウランかプルトニウムのどちらかを、ほんの数キロ手に入れてしまえば作れてしまうのであり、多額の資金を入手できる個人の集まりが本気になって作ろうとすれば、できないことはない。
http://hamisheddietsundoku.blogspot.com/2008/12/blog-post_24.html

査察を実施するIAEA自体も、資金難や人員不足などに
悩まされ続けているという状況が続いており、
これに対し、オバマ政権は「4年間でIAEAの予算を倍増する」と表明しています。
このオバマ政権の方針表明は、IAEAという機関そのものの脆弱さを
克服することを目的としたものですが、
加えて、来年開かれるNPTの再検討会議で、
IAEAの査察権限の方も、さらに強化される方向で話がまとまるのかどうか
注目されているといえます。

そもそも、IAEAの保障措置の受け入れは非核兵器国が負うべき義務であり、
NPTが規定する核兵器国(米、ロ、中、英、仏)だけが、
保障措置を受け入れる義務を免れることができる。
すでに核兵器を保有しているのだから、
今さら、平和利用のための核物質の軍事転用を
監視したところで意味はないだろうということなのでしょうが、
保障措置は核物質の管理に関係するものでもあるので、
普通に考えると、核兵器国が保障措置の下に置かれない
というのは おかしな話です。
当然、現在では、核兵器国もIAEAの保障措置を
受け入れるようになってきてはいますが、
こうしたこと一つとっても、NPTは差別的な条約であると言われ続け、
インドやパキスタンなどが、NPTの不公平性を理由に、
加盟を拒み続ける…ということにもなっているわけです。

イランと欧米諸国との対立に象徴されるような、
核兵器国と非核兵器国との意見の対立には、
NPTの差別的な性質が背景にあるといっても過言ではなく、
オバマ大統領も、「NPTは公平な条約」であるということを、
広く認識してもらうことが重要であると理解しているようです。

例えば、オバマ大統領は、プラハでの演説で、
「NPTで定められた約束事は妥当なものです。核兵器保有国は、
核軍縮に向けて努力し、核兵器を保有していない国は、
核兵器を入手するようなことをしなければ、結果的に、
すべての国が平和的な核エネルギーを獲得することが
できるということなのですから」
…と述べていました。

つまり、NPTが核兵器国に課している核軍縮義務を
想起させることで、NPTは公平性を保っていると言いたい。
そのためにも、オバマ政権の核兵器政策にとっては、
"Lead"の部分を強調しておくことが重要となる。

その上で、オバマ大統領は、同時に、
「核エネルギーの平和的利用は、核兵器を放棄したすべての国の権利です。
特に、核エネルギーの平和利用に取り組む発展途上国に、
この権利が保障されなければなりません」
と述べ、NPTをめぐる交渉で頻繁に見られた
発展途上国側の反発を抑えようとしているようです。

核エネルギーの平和的利用との関連で、
オバマ大統領は、プラハでの演説で、
「拡散の危険を増大させずに、平和的なエネルギーを入手することができる
国際燃料銀行に代表されるような、
民生用の核開発協力のための新たな枠組みを確立すべきです」
と提案していましたが、この部分が、
戦略態勢委員会が、米国がリーダーシップを発揮する分野の例として
挙げていた⑥と関係してきます。

6月18日に閉会したIAEA理事会では、
オバマ大統領の上の主張に賛同したIAEAが
原子力発電用の燃料となる低濃縮ウランを安定供給する「核燃料バンク」
を提案していますが、この提案に対し、発展途上国は反発しました。
つまり、核物質を一元管理したい米国やIAEAと、
核燃料サイクルをできることなら自前でやりたいと考える
発展途上国側との間で、意見が対立した模様です。
結局のところ、核を持つ者に対して持たざる者が抱いている
不公平感を払拭できているわけではなく、
「核燃料バンク」構想を進めるには、
まだまだ前途多難であるといえそうです。

VI. 終わりに

オバマ政権の核兵器政策の特徴は、
戦略態勢委員会の以下の指摘に集約されていると言えそうです。

The Commission sees both U.S. extended deterrence guarantees and the global treaty regime as integral to the achievement of U.S. nonproliferation policy.(p.73)
「米国の核不拡散政策の目的を達成するには、
米国の拡大抑止による核戦力の保証と、
核拡散を防止するためのグローバルな条約レジームの双方が
不可欠であると、戦略態勢委員会は考えている」

つまり、戦略態勢委員会の報告書で
指摘されていることでもありますが、
拡大抑止のための核による保証戦力を維持するという政策と
核の拡散防止を進めるための政策は、同価値なのであり、
この二つの方向の政策を同時に進めていくことにおいて、
オバマ大統領のリーダーシップが求められているというわけです。

ここで、再度、戦略態勢委員会の報告書の概要を
ざっと振り返ってみます。

核拡散の脅威を減らしていくためには、
NPTなどの国際条約が備える核の軍備管理のための
検証システムを強化し、機能させなければならない。
が、NPTは差別的な条約であると考える
新興核兵器国や非核兵器国も多く、
そうした国が抱く不公平感を払拭するためにも、
米国はNPTが核兵器国に課している核軍縮義務を、
積極的に果たしていく必要がある。

半面、現在はまだ、核兵器廃絶を達成できるような
安全保障環境ではないため、
核抑止力を維持することも必要となり、
とりわけ、核軍拡懸念を抱える地域において、
米国の同盟国が、核兵器を保有してしまうという
シナリオを避けるためにも、
米国は同盟国を保護する拡大抑止の責務を
果たさなければならない。

NPTの核軍縮義務を果たしながらの、
また、寿命を迎えた核兵器の
装備更新と廃棄を進めながらの拡大抑止
ということになるため、
核戦力の規模は、当然、以前よりも小さくなる。
故に、小規模の核戦力で、
いかにして拡大抑止を機能させるかが課題となる。

…という具合にまとまるでしょうか。

では、戦略態勢委員会の報告書から読み取れる
オバマ政権の核兵器政策が上のようなもので あるとして、
これが日本の防衛政策に、 どう影響してくるのでしょうか?
特に疑問視されていることは、米国は保有する核兵器を
1000発にまで減らすことを視野に入れていますが、
1000発の核兵器で、日本を含む同盟国の拡大抑止が
果たして可能なのか?…ということのようです。
これとの関連で、戦略態勢委員会の報告書は、
非常に気になる指摘をしています。

In particular, now is the time to establish a much more extensive dialogue with Japan, limited only by the desires of the Japanese government. Such dialogue with Japan would also increase the credibility of extensive deterrence. (p.70)
「特に、今こそ、日本とさらに幅広い対話を持つ時である
日本政府の要望を聞くだけとどまらない、幅広い対話である。
日本とそうした幅広い対話を持てれば、拡大抑止に対する
信頼も得られるだろう」

日本政府はこれまで、米国の核抑止力に依存しつつも、
非核三原則などを盾にし、
実際に米国の核戦力が必要となるような局面で、
核兵器をどう運用するのかといったような
具体論には敢えて踏み込まないようにしてきたと思います。

今後、米国の核兵器が大幅に削減され、
核戦力の規模も小さくなった場合、日本を守るための
米国の拡大抑止の在り方はどうなるのか…
戦略態勢委員会の報告書は、この点をめぐる幅広い対話を
日本とすべきだと言いたいようです。
つまり、米国からすると、核兵器を1000発程度にまで減らし、
規模が小さくなった核戦力でも、
日本をはじめとする同盟国を
拡大抑止で守れることが説明できる…とみていいようです。
だから、戦略態勢委員会の報告書が述べている通り、
日本と踏み込んだ対話を持つことで、拡大抑止に対する
日本の信頼を勝ち取ることができるという見込みさえ示している。

しかし、こうした対話を米国と持ったとしたら、
核戦力の配備の具体的な話に必ずなるでしょう。
そして、核戦力の配備における
日本の協力すら要請されることにもなる。

つまり、核兵器搭載の原子力潜水艦を日本に寄港させるのかどうか
などの具体論に日本が直面することにもなりかねず、
日本政府からすると、このような類の話は、
厄介すぎてしたくはないでしょう。

が、逆に核戦力配備の具体的な話を避け続け、
曖昧なままにし、拡大抑止を機能させるために、
日本は米国と、どのように協力するのかについての
考え方を示さないままでいるとしたら、
結果的に、オバマ政権が、日本を防衛戦略のパートナーとして
信頼しなくなるということになりはしないかとも危惧します。

"Lead but hedge"というスタンスを引き継ぐ
オバマの「核兵器ゼロ」は、日本にとって、
諸手を挙げて、歓迎だけしていられるような代物ではなさそうです。(了)

2009年5月13日水曜日

アフリカで国連平和維持任務などにあたっていた航空貨物機が「武器の密輸」にも関与

大量破壊兵器(WND)の不拡散については、
「拡散阻止のための安全保障イニシアチブ」(PSI)など、
WMDとその運搬手段や、それらの開発・製造に関連する
機微な貨物を運搬する船舶、航空機、車両を
強制的に阻止し、臨検などを行う国際的な枠組みが存在しますが
通常兵器・小型武器の拡散問題の場合は、
こうした枠組みが存在しません。

また、国防や国連の平和維持活動における
治安維持任務などに必要な武器の取引は正当であるとする
考え方が一般的であるとも言え
大量破壊兵器の場合もそうですが、
小型武器、ないし通常兵器の移転を規制する上での
「国際法の欠缺」とも言える現状は、より根強いとも思えます。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告は
PKOや人道支援を隠れ蓑にした武器の密輸があったことを
指摘しているもので、非常に興味深い。

以下、AFPの報道がSIPRI報告に触れているので紹介します。

AFPの記事の最後で引用されているアル・カポネの例は
アル・カポネが禁酒法違反でも殺人でもなく
脱税で起訴されたことに触れ、武器の不正取引規制の在り方の
一つの案を示しているわけですが
この引用が逆に武器取引規制における
「法の欠缺」という現状を浮き彫りにし
では、武器の不正取引という罪に問うのではなく
別の容疑で取り締まればいいではないかと
言っているようにも聞こえたのが面白かったです。

Africa aid shipped in planes 'used for weapons'
アフリカへの空輸支援、「武器の密輸」に利用される


May 11, 2009
http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5gfak07cKoJn2ErozPO3rX5GNTQvw

STOCKHOLM (AFP) — Air cargo carriers used to smuggle weapons to war-torn parts of Africa have also been hired to deliver humanitarian aid and support peacekeeping operations, a leading peace think tank said Tuesday.
ストックホルム(AFP):アフリカの紛争地域に武器を密輸するため利用されていた空輸貨物が、人道援助や国連平和維持活動への支援という名目で運搬されていたことが分かった。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が火曜日に明らかにした。

The Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI) said in a report that 90 percent of air cargo companies identified in arms trafficking-related reports had been used by UN agencies, European Union and NATO members as well as leading non-governmental organisations to deliver aid.
SIPRIの報告書によると、国連機関や欧州連合(EU)、もしくは北大西洋条約機構(NATO)に加え、非政府組織(NGO)の要員にも支援物資を送っていたとされる航空貨物会社の90%が、武器の不正取引に関与していたという。

"For example, UN peacekeeping missions in Sudan have continued to use aircraft operated by (Sudan's) Badr Airlines even after the UN Security Council recommended an aviation ban be imposed on the carrier in response to arms embargo violations," the SIPRI report said.
「例えば、スーダンで活動する国連平和維持部隊は、国連安全保障理事会が武器禁輸違反に対する措置として、空輸の禁止を勧告した後でさえも、スーダンのバドル航空会社が運営する航空機を使い続けいていた」とSIPRIは報告書で指摘している。

The report also singled out other African carriers such as Astral Aviation, African International Airlines and the Sudanese-registered Trans Attico as being named in arms trafficking reports.
報告書は他にも、アストラル航空やアフリカ国際航空会社、スーダンで登録されているアッティコ横断航空会社など、武器の不正取引に関わっているアフリカの運送会社の名を挙げている。

It also said several US private security firms hired air cargo carriers and aircraft which have been "involved in the trafficking of arms to militias which the US government have designated 'global terrorists'."
また報告書によると、貨物輸送機や航空機を運用している米国の民間警備会社の中には、「米政府が「グローバルなテロリスト集団」として指定している武装闘争集団への武器の不正取引に関与している」ところもあるという。

The report cited Dyncorp, a company that provides security services for the US government, as having contracted Aerolift, a firm accused by the UN Security Council in 2006 of being involved in arms trading, to supply weapons to an Islamist militia that controls much of southern Somalia.
例えば、報告書は、米政府に警備サービスを提供している米国の民間警備会社「ダインコープ・インターナショナル」が、ソマリア南部を支配するイスラム系の武装闘争集団に兵器を供与する武器貿易に関与していたことを理由に、2006年に国連安全保障理事会から非難されていた航空会社「アエロリフト」と契約していた例を挙げている。

The militant group, Al-Shabab, was added by the US government to its list of terrorist organisations in March 2008 over alleged links to Al-Qaeda.
このイスラム系の武装闘争集団「アル・シャバブ」は、アルカイダとつながりがあるとの疑いで、2008年3月に、米政府によりテロ組織リストに加えられている。

SIPRI's report added that air carriers involved in aid and peacekeeping operations were also used to transport "conflict-sensitive" goods such as cocaine, diamonds and other precious materials.
さらに報告書は、人道援助や国連平和維持活動で運用されていた貨物輸送機がコカインやダイヤモンド、その他の貴重品など「紛争に機微な」物品も輸送していたことを指摘している。

One of the report's authors, Mark Bromley, said that a more rigourous application of the EU's existing air safety regulations could play a crucial role in stemming the flow of weapons to Africa's conflict zones.
報告書の編集者の一人であるマーク・ブロムリー氏は、EUの既存の航空安全規制をより厳格に適用することが、アフリカの紛争地への兵器の流入を食い止める上で、重要な役割を果たすだろうとの見解を示した。

"Air safety enforcement could put hard core arms dealers out of business," Bromley said in a statement.
ブロムリー氏は「航空安全規制の強化で、熱心な武器販売業者をビジネスから除外することができるはずだ」と述べている。

"Our research shows that companies named in arms trafficking-related reports have poor safety records. Safety regulations represent their Achilles heel, and can do to them what tax evasion charges did to Al Capone," he added.
「私たちの研究が示しているように、武器の不正取引に関与している航空会社の航空安全記録は心許ない。航空安全規制は、こうした航空会社のアキレス腱であるとも言え、アル・カポネは脱税の罪で起訴されたのだということを思い知らせることができる」とブロムリー氏は付け加えた。