2009年8月14日金曜日

核兵器国・非核兵器国協働型の核兵器解体作業:英国とノルウェーの取り組み

「核兵器ゼロ」という終着点に言明した
オバマ米大統領のプラハ演説を受け、
日本も、中曽根弘文外相が
「ゼロへの条件―世界的核軍縮のための『11の指標』」
を発表しています。

中曽根外相の「11の指標」の中でも特にユニークなのは
5番目の指標で、曰く…

「核兵器解体についての将来の検証に関する研究である。
核弾頭解体を検証しつつ、機微な情報が漏洩、流出しないように、
これを厳格に保護する必要がある。
科学技術外交を重視する我が国としては、
英国やノルウェーのイニシアティブに協力する用意がある。」

…という部分です。

核軍縮の進展を評価するには、
核兵器の解体作業が進んでいるかどうかを
見るのが一番分かりやすいと言えますが、
従来、この核兵器解体作業の検証過程に
非核兵器国が関与するということはありませんでした。
核機密漏洩の懸念が、その主な理由ですが、
結果的に、核軍縮は、あくまで「核兵器国のやる気のみ」に
その進展具合が左右されることになっている
と言っても過言ではないでしょう。
つまり、やや乱暴な言い方をしてしまえば、結局のところ、
非核兵器国は核軍縮の蚊帳の外に置かれている
…というのが現実であるのかもしれません。

では、多くの非核兵器国の念願である核軍縮を具体的に検証する過程に、
非核兵器国自身も参加するということが将来的にあり得るのか?

英国とノルウェーが核兵器解体作業を
核兵器国と非核兵器国の協働で行うための実験を行っています。
面白いのは、非核兵器国が核機密についての扱いの理解を深めることで
核兵器国との核解体作業における協力を可能にさせる
との観点に立った実験であるという点です。
この英国とノルウェーの取り組みについて、英国のBBCが独占取材し、
詳細に報じていましたので、以下、取り上げてみます。

How to dismantle a nuclear bomb
どのように核兵器の解体を進めていけばよいのか

Story from BBC NEWS:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8154029.stm
Published: 2009/07/16 21:04:39 GMT
© BBC MMIX

How do you dismantle a nuclear bomb? And how do you verify another country is genuinely disarming without compromising sensitive national security material?
BBC security correspondent Gordon Corera was given exclusive access to a unique exercise run by the UK and Norway to find out.
核兵器をどうやって解体すればよいのか?また、公にはできない安全保障上の情報を開示せずとも、ある国が本当に核の武装解除をしたかどうか検証するには、どうしたらよいのか?
BBCの安全保障担当記者、ゴードン・コレラ氏が、英国とノルウェーにより実施されている独自の取り組みを独占取材した。


The nuclear weapon is carefully lifted out of a large container and moved onto the floor.
核兵器が巨大なコンテナから慎重に運び出され、作業所に持ち込まれた。

Two engineers use an electric screwdriver to open up a side compartment and remove the "physics package" containing the sensitive parts of the bomb.
二人の技術者が電動ドライバーを使って核兵器の側面部を開き、爆弾用の部品を含む「物理パッケージ」を慎重に取り出した。

A scientist with a radiation detector beckons me forward as he points his machine towards the box.
放射線検出器を手にした科学者が、取り出した「物理パッケージ」の側に来るよう、私を手招きした。

It begins to emit an accelerating beeping noise. "The measurement is approximately a hundred times normal background radiation," he tells me.
放射線検出器から警告音が鳴り始め、徐々に大きくなっていく。「測定値は、通常の背景放射線の約百倍の量だ」と、その科学者は説明してくれた。

"But it is not dangerous, I promise," he adds with a smile.
「だが、危険ではない。約束しよう」と彼は、笑顔で付け加えた。

The lack of danger is because the bomb is not real. To inject an element of realism into this experiment, a weak radioactive material - Cobalt 60 - is used.
それもそのはずだ。爆弾は本物ではないのだから、危険なわけがない。ただ、実験を本物に近付けるため、微弱な放射性物質であるコバルト60が使われている。

The dismantlement experiment is a joint exercise between the UK and Norway - the first of its kind - and was held a few miles from Oslo.
この核兵器解体実験は、英国とノルウェーの共同事業で実施された。この種の実験が行われたのは初めてことだ。実験はオスロから数マイル離れた場所で実施された。

The five-day exercise has been keenly anticipated internationally as a way of building trust between nuclear weapons states and non-nuclear weapons states.
この5日間に及ぶ実験は、核兵器国と非核兵器国との間の信頼を醸成するものとして、国際的にも高い期待が寄せられている。

It is designed to see if one country can verify the disarmament of another country's nuclear weapon, but without any sensitive information about national security and weapon design being compromised.
実験は、ある国が核兵器を解体したかどうかを、安全保障上、公にはできない情報や、核兵器の設計情報を開示せずとも、検証できるのか確かめるという意図で行われたものだ。

In a role reversal, the Norwegians play a nuclear weapons state (called Torland) and the UK team play inspectors from Luvania, a non-nuclear weapons state.
実験では、英国とノルウェーの立場が逆転している。ノルウェーは「トーランド」と呼ばれる核兵器国の役割を演じ、一方、英国は「ルバニア」と呼ばれる非核兵器国の査察団の役割を演じている。

REDUCING WEAPONS
There is currently a new push for global nuclear disarmament. Russia and the US announced in Moscow in early July that they would reduce their stockpiles and the UK has said it might be willing to reduce further its nuclear deterrent as part of any global disarmament talks. The non-nuclear weapons states have been pressing for more active disarmament and if there were further moves then allowing non-nuclear states to verify the disarmament would help increase confidence between the two sides.
核兵器の削減
現在、グローバルな核軍縮の推進を目指す、新しい動きが見られる。米国とロシアは、6月の初頭、モスクワで核兵器の備蓄量を削減することを約束。英国も、グローバルな核軍縮協議の場で、核抑止力の更なる縮小を目指す意向を示している。非核兵器国は、より積極的な核軍縮を求めており、非核兵器国による核軍縮過程の検証を可能にするような、新しい動向が生まれるのであれば、核兵器国と非核兵器国との間の信頼を、更に深めることができるのではないかと期待される。


The 10 inspectors from UK/Luvania remain in character as soon as they enter the gates of the nuclear facility. During meal breaks they are kept separate from both the Norwegian/Torland team and the joint planning group.
核施設内に入るやいなや、英国が演じるルバニアからやってきた10人の査察官が、それらしく振る舞う。食事の間、ルバニアの査察団は、ノルウェーが演じるトーランドのチームと、英国とノルウェーの共同計画グループに接触することができないよう、別々にされている。

A huge amount of work goes in to making the exercise as realistic as possible.
実験のほとんどは、可能な限り現実に近付けてある。

A large, white binder contains briefing packs with fake Torland letters inviting the team to verify dismantlement of one of their Odin gravity bombs.
白く、大きなバインダーには、トーランドの重量核爆弾「オーディン」の解体を検証させるため、査察チームを招く旨を伝える架空の書簡とともに概要説明ファイルが入っている。

Stamped "secret", the Torland brief states that all details about the size, shape, composition, etc, "must be kept outside the knowledge of inspectors at all costs".
「機密」の判が押されたトーランドの概要説明ファイルには、核弾頭の大きさ、形、設計などの詳細な情報の全てを、「査察官には知らせない」と書かれてある。

To complicate matters, inspectors are given a printout from a fake website which features what is alleged to be leaked pictures of the weapon.
さらに、査察官には、核兵器の写真の流出をスクープした架空のウェブサイトのコピーが手渡され、混乱を誘っている。

"The aim is to develop methodologies we could use in inspections of a real nuclear facility but in an environment in which can do trial and error," explains Andreas Persbo of Vertic, which helped organise the event.
今回の実験を計画した英国のプラウシェア基金の研究員、アンドリアス・ペルスボ氏は「本物の核施設を査察するときに使える方法論を発展させることが目的だが、試行錯誤の環境の中でやっている」と説明した。

It is not an exercise in which the nuclear state is trying to clandestinely divert nuclear material or the inspecting side search for a covert facility.
また、今回の実験は、核兵器国が秘密裏に核物質を流用しようとしたり、査察側が隠れた施設を探したりするようなことを想定しているわけではない。

Paintball guards
着色弾が込められた銃を携帯する警護員


The main aim instead is to try to look for practical lessons and solutions to build confidence between the haves and have-nots in the nuclear world.
実験の主たる目的は、核兵器を持つ国と持たざる国との間に信頼関係を構築するための、実用的な教訓と解決策を探るということにある。

Even so, the British/Luvania team push the boundaries during the long negotiating sessions that begin and end each day, at one point submitting 15 questions, some of which the Norway/Torland team refuse to answer.
ただ、そうであったとしても、英国が演じるルバニアの査察チームは、ノルウェーが演じるトーランドに15の疑問を投げ掛けることで始まり、トーランドがそのうちのいくつかの疑問に対する回答を拒絶することで終わる長い交渉の末、過ぎていく一日一日の中で、何とかして膠着状態を打開していくことになる。

There is even an early disagreement over the question of what type of warning - if any - the guards would give before firing their weapons.
査察官を守る警護が武器を使用する際の警告は、どのようなものなのかという疑問についても、はなから合意が存在しない場合さえある。

The guards, who follow the inspectors everywhere, are real Norwegian soldiers but armed with non-lethal weapons, similar to paintball guns.
査察官の行くところすべてに同伴する警護は本物のノルウェーの兵士である。しかし、携帯している武器は本物ではなく、着色弾が込められた銃を所持している。

The key task for the inspectors is to establish a chain of custody and ensure that at no point is any sensitive material diverted.
査察官の主な任務は加工・流通過程の管理を確立することにあり、機微な物資が流用されることがないという確証を得ることにある。

But this has to be done without ever actually seeing the sensitive material itself.
しかし、機微な物資の実物を見ることがないまま、査察が進められることになる。

Initially, a truck takes a container carrying the device to the disarmament facility.
まず、トラックが装置の入ったコンテナを、核兵器解体施設に運ぶ。

From the start inspectors watch, photograph, seal and tag key items. They cover entry and exit points to the disarmament chamber, sweeping all those going in and out to ensure no radioactive material is smuggled away.
査察官は写真や封印された重要な物資、荷札などを最初から確認している。査察官は、解体部屋に通じる入り口から出口までを見張っており、解体部屋に運び込まれたり、もしくは、解体部屋から運び出されたりしている放射性物質が、こっそり持ち出されないよう監視している。

"It is a very choreographed process, almost like a ballet," says Mr Persbo. "Timings are very precise."
「バレーの振り付け過程にかなり近い。タイミングが非常に緻密なのだ」とペルスボ氏は指摘する。

The amount of fissile material in a nuclear bomb is itself classified, so a number of techniques have to be employed by the inspectors to ensure nothing is diverted when they are not able to measure it in detail themselves.
核爆弾の中の核分裂性物質の量は機密扱いとなっている。査察官は、核爆弾の中に、どれだけの量の核分裂性物質が含まれているか確認できないので、流用を防ぐためのあらゆる手段を講じる必要がある。

Each country's scientists have separately designed and built their own prototype devices known as "information barriers", which can confirm that an agreed amount of radioactive material is present in any container.
各国の科学者は、コンテナの中に含まれている放射性物質が合意されている量であるのかどうかを確認できる「情報障壁」としての原型装置を個々に設計・製造している。

The machines provide a green light if the contents match the last reading but the actual contents are not revealed.
この装置は、コンテナの中身が最終の測定値と合致したら許可を与えるようになっているが、中身が実際にどうなっているのかについては明らかにしない。

There is genuine relief from the scientists when both come out with an agreed result of what is inside the container.
コンテナの中身が合意の範囲であるという結果が公表されれば、科学者の負担を減らすことになる。

The other means for assuring the chain of custody are tags and seals.
加工・流通過程を管理するためのもう一つの手段が、荷札とシールによる封印である。

Tags and seals
荷札とシールによる封印

A tag is any form of identifying label, while a seal is used to ensure a room or box is not tampered with during times inspectors are not physically watching it.
荷札は中身を証明するラベルであり、シールによる封印は、査察官による物理的な監視が行われていない間に、積荷の収納室や箱に手が加わることがないよう、保証するために使われる。

These are surprisingly low-tech. A purple strip of adhesive goes across a door hinge. If it is moved then the colour changes and a warning appears on it.
極めてローテクな手段ではある。紫色の粘着テープが扉の蝶番に貼られている。もし、蝶番が動けば、警告として粘着テープの色が変化する。

Additionally, the seal has a blob of glue with multi-coloured glitter inside. This is photographed close-up by the inspectors once it is in place and then again when inspectors return.
さらに、シールには、きらきらと光る多色の粘着物の染みが付いている。積荷が収納室に置かれ後、査察官が再び戻ってきた際に、査察官が封印の様子を撮影した近接写真がこれである。

The unique pattern would be almost impossible to replicate perfectly in a relatively short space of time. More high-tech variants are available involving fibre-optics and the next stage of the project may involve looking at ways of designing the most effective seals.
この粘着物の特殊な配色を短期間で完璧に複製することは、ほぼ不可能だろう。ファイバー繊維光学を用いた、よりハイテクな改良型も利用可能となっており、最も有効な封印シールとして次の核兵器解体事業で採用されるかもしれない。

After the "physics package" is removed from the bomb and placed in a container, the inspectors are allowed to return into the room and watch it being placed in a storage room for the night.
「物理パッケージ」が爆弾から取り除かれ、コンテナの中に入れられた後、査察官は収納室に戻ることが許され、夜間にコンテナが収納室に置かれていることを確認する。

The next morning, in the pouring rain, inspectors follow the container as it is moved by a cart to another part of the facility where the radioactive material is - at least notionally - removed in a hot cell using robotics arms.
翌朝、雨の中、査察官は手押し車に乗せられ、別の施設に移動するコンテナの後を追う。移動先の施設では、放射性物質(少なくとも概念的にはそう言える)のホットセルをロボット・アームで取り除く作業が行われる。

Finally it is moved to a storage site.
最後にコンテナは、保管場所に移される。

"This is about having an understanding of what it means to take some material from A to B without really knowing what it is," explains Norwegian official Ole Reistad.
ノルウェーの関係者であるオル・レイスタッド氏は「物質のことを本当に知らなくとも、ある物質がAからBへと移されることの意味は、概ね、理解できるはずだ」と述べる。

"Under other verification arrangements, it might be special types of fuel, it might be commercial secrets or it might be other security interests that you have to protect in some way."
また、レイスタッド氏は「特殊な燃料に関係するものかもしれないし、商業的機密事項かもしれない。はたまた、安全保障上の利益に関わるものかしれないが、検証においては、そうした他の約束事も、何とかして守らなければならない」と指摘した。

Dress rehearsal
本稽古

In practice no nuclear weapons state has ever allowed a non-nuclear weapons state to verify disarmament. But if there was to be multilateral disarmament in the future, it may well be important to provide such states with confidence over its actions.
実際には、核兵器国が、核軍縮の検証を非核兵器国に認めたことは一度もない。しかし、将来的に、多国間で核兵器の解体を進めるということがあるのであれば、核兵器国と非核兵器国が、この作業を行うことへの自信を得ていけるようにしていくことが重要だろう。

Officials on both sides hope that this and any future events will lead to better understanding between nuclear weapons states and non-nuclear weapons states and more collaborations, allowing trust and confidence to be increased.
今回の英国とノルウェー双方の関係者は、今回の実験と今後の取り組みが、核兵器国と非核兵器国の相互理解を進め、より協調的な関係を構築し、信頼と自信を深めていことにつながるだろうと期待を寄せる。

"Norway is very much committed on the disarmament agenda," explains Gry Larsen, Norway's State Secretary for Foreign Affairs. "This project in a way shows our commitment to try and find good practical ways of making sure we have nuclear disarmament."
ノルウェーのグライ・ラーセン外務副大臣は「ノルウェーは、核軍縮という課題に全力で取り組んでいる」と強調し、「今回の事業はノルウェーの取り組みを証明するとともに、核軍縮に向け、確信が持てる現実的な手段を見出していくものだ」と説明した。

UK inspectors and observers say they learnt about the challenges of being a non-nuclear weapons state and providing confidence, as well as ways of ensuring their own sensitive material is protected.
英国の参加者は、機微な物資の保護を確実にしていくための手段だけでなく、非核兵器国の課題や信頼関係を構築してことなどについても学んだと述べた。

The Norwegians say they garnered a first-hand perspective of the sensitivities of nuclear states in protecting classified information.
ノルウェーの参加者は、機密情報で保護されている複雑な核兵器国の視点を、直に得ることができたと語った。

The UK has talked of acting as a "disarmament laboratory" and being part of the process allows the UK to say that it is living up to its obligations under the Non-Proliferation Treaty for disarmament, although the emphasis is on developing the technical aspects of verification.
英国は、今回の「核兵器解体実験」と言うべき取り組みについて、検証作業の技術面の発展ということに限られはするものの、英国が、核拡散防止条約(NPT)が核兵器国に課す、核軍縮のための義務を果たしていることにつながると言ってもよいだろうと述べた。

"It was lots of hard work but there's opportunity for more progress in the future," said one UK Ministry of Defence official.
英国防省の関係者は「課題は多いが、将来的に、さらに進化していく機運は高まっている」と指摘する。

Other countries are also said to have shown interest in the work, including the US, Canada, Russia, Australia and Japan. 英国とノルウェーの取り組みに対しては、米国、カナダ、ロシア、オーストラリア、日本などの国々が関心を示している。(了)

2009年8月5日水曜日

米国の軍民両用技術の密輸問題

米会計監査院(GAO)が6月に公表した報告書を踏まえて、
米国の軍縮・軍備管理に携わるシンクタンク、
アームズコントロール・アソシエーションの研究員による指摘。

軍民両用の貨物・技術の厳格な輸出規制は、
商業的利益を阻害する恐れもあるため、
規制の効果的な運用はなかなか難しい。
規制が相対的に厳しい米国も、かなり頭を悩ませているようだ。
GAOは輸出規制だけでなく、
国内販売への規制の必要性にも言及している。

最近、日本でも武器輸出三原則の緩和の議論が再燃している。
個人的には緩和は必要だと考えるが
一方で、欧米諸国と比べても、まだ十分な輸出管理体制が
整備されているとはいえない日本の状況にも配慮し、
武器輸出三原則の緩和と同時に、兵器の拡散問題も踏まえ、
実効性のある輸出管理体制の在り方にも目を向けた
バランスの取れた議論を進めてほしいと思う。

GAO Finds Gap in U.S. Export Controls
米会計監査院が米国の輸出管理規制の抜け穴を指摘

Emma Ensign
http://www.armscontrol.org/act/2009_07-08/GAO

Sensitive dual-use and military technology can be easily and legally purchased within the United States and illegally exported without detection, according to a report issued by the Government Accountability Office (GAO) last month.
(軍民両用の)機微な汎用技術と軍事技術は、米国内で簡単に、かつ合法的に購入でき、しかも、誰にも知られずに違法に輸出されている。米会計監査院(GAO)が先月公表した報告書は、このように指摘している。

Using a fictitious front company and false identities, the GAO was able to purchase dual-use technology such as electronic sensors often used in improvised explosive devices, accelerometers used in "smart" bombs, and gyro chips used for guiding missiles and military aircraft. The GAO was also able to export the technology without detection to a country that it identified only as "a known transshipment point for terrorist organizations and foreign governments attempting to acquire sensitive technology," the GAO's Gregory Kutz said in congressional testimony June 4. Kutz, managing director for forensic audits and investigations, was a witness at a hearing of the House Energy and Commerce Subcommittee on Oversight and Investigations, which had requested the GAO probe.
「架空のトンネル会社や偽名を使えば、GAOは、簡易爆発の製造によく使われる電子感知器や、『(誘導可能な)スマート爆弾』の製造に必要な加速時計、また、誘導ミサイルや軍用機の開発に用いられるジャイロチップのような汎用技術を購入できた。さらに、『機微な技術を入手しようと企てるテロリスト集団や外国政府のための積換ポイントとしてだけ知られている』国に、そのような技術を、誰にも知られずに輸出することもできた」。GAOのグレゴリー・クーツ氏は6月4日、議会で上のように証言した。クーツ氏は不正捜索型監査・調査の担当責任者で、GAOに調査を要請していた下院エネルギー・商務委員会監視・調査小委員会の公聴会に証言者として呼ばれていた。

Although items such as the ones the GAO purchased are often subject to export restrictions under the Commerce Control List or the Department of State's U.S. Munitions List, they can be legally obtained from manufacturers and distributors within the United States, often with only a name and a credit card, the report said. According to the report, the items have been and continue to be used against U.S. soldiers in Iraq and Afghanistan. Access to that type of sensitive military technology could give terrorists or foreign governments an advantage in a combat situation against the United States, the report said.
もちろん、GAOが購入する商品は、商務省が管理する規制品目リスト(CCL)と国務省が管理する軍需品リスト(ML)に基づき、輸出が規制されているが、GAOの報告書によると、名義の提示やクレジットカードのみで、米国内の生産者や販売業者から合法に買うことができてしまうという。また、報告書は、そうして購入された商品が、イラクやアフガニスタンで活動する米兵に対抗するために使われ続けているとも指摘している。軍事用にも転用できる機微な技術を手に入れることで、米国と戦闘状態にあるテロリストや外国政府は、有利な状況をつくりだしていると報告書は強調する。

Dual-use technology refers to technology that has both conventional and military or proliferation uses. Machinery such as a triggered spark gap, for example, can be used as a high-voltage switch for medical applications and a detonator for a nuclear weapon, the report said.
「汎用技術」は、軍事用にも民生用にも使われる技術で、しばし、拡散目的で流通していると言われている。報告書は、例えば、火花ギャップトリガーのような機器は、医療用の高電圧スイッチとしても、核兵器の起爆装置としても使うことができると指摘している。

The report cited officials from several government agencies as saying there is no practical way to prevent such products from leaving the country after they have been purchased by a domestic buyer. The report noted that although regulations are in place to prevent improper use of dual-use and military technology, these regulations focus on controlling exports rather than on securing domestic sales. Currently, there are no legal requirements for the sellers of dual-use or military technology to conduct background checks on prospective domestic customers.
報告書は、国内で購入された汎用技術の、国外への流出を阻止する具体的な手段はないと述べた政府関係者の言葉を引用している。特に、報告書は、輸出規制は軍事・汎用技術の不適切な使用を妨げることを目的としているが、半面、輸出管理にばかり関心が集中し、国内販売の安全確保という発想に欠けている点に注目している。現在、軍事・汎用技術を販売する売り主に、国内の見込み顧客の素性をチェックするよう求める法規定はない。

The GAO report highlights "an enormous loophole in the law," Rep. Bart Stupak (D-Mich.), chairman of the oversight subcommittee, said in a statement at the hearing. "The stakes cannot be higher."
下院エネルギー・商務委員会監視・調査小委員会の議長を務めるバート・スチューパク下院議員(民主党、ミシガン州選出)は、公聴会での発言の中で、報告書が「輸出規制の法律には大きな抜け穴がある」ことを強調している点に触れ、「高い期待を持つことはできない」と述べた。

According to the report, seven of the 12 types of sensitive dual-use and military items obtained during the investigation have previously been the focus of criminal indictments and convictions for violations of export control laws. Additionally, a 2008 report by the U.S. Army War College's Strategic Studies Institute revealed attempts by North Korea to procure dual-use technology from foreign sources for use in that country's guided missile program.
報告書によると、GAOによる調査の間も、12種類の機微な汎用品・軍需品が調達され、そのうちの7種類の調達事例が刑事告発、もしくは、輸出規制法違反として有罪判決を受けている。さらに、米陸軍戦争大学の戦略研究所が公表した2008年度報告書は、北朝鮮が誘導ミサイル開発計画に必要な汎用技術を、海外から調達しようとしていることを明らかにしている。

Although there are programs in place to educate manufacturers and distributors on common risks associated with the sale of military or dual-use technology, the lack of controls in place to regulate domestic sales limits the effectiveness of such programs, the GAO report said.
また、GAOの報告書は、米国内の生産者と販売業者が、軍事・汎用技術の販売にともなうリスクについて学んでもらうことを目的とした計画があるものの、国内販売を規制するための管理体制がないことが、そうした計画の実効性を損なう結果となっていると指摘している。

The report suggests that restricting domestic sales of dual-use and military items could be key to preventing the illegal export of such technology.
そのため、GAOの報告書は、汎用・軍需品の国内販売を規制することが、汎用・軍事技術の違法な輸出を阻止するためにも重要であると提案している。

Seeking a Balance
バランスを取る

Many U.S. companies balk at the prospect of more export controls, arguing that they are obstacles to success in the global market. At the confirmation hearing of Rep. Ellen Tauscher (D-Calif.), whose nomination to be undersecretary of state for arms control and international security was approved by the Senate June 25, Sen. Benjamin Cardin (D-Md.) expressed such concerns.
米国の企業の多くは、更なる輸出規制の強化に向けた兆候を嫌っている。グローバルな市場での競争に勝てなくなるというのが企業側の主張だ。軍備管理および国家安全保障担当国務次官に指名され、6月25日に上院に承認されたエレン・タウシェル下院議員(民主党、カリフォルニア州選出)の指名承認公聴会で、ベンジャミン・カルダン上院議員(民主党、メリーランド州選出)が同様の懸念を表明している。

Because "a lot of technological growth is international," companies would suffer if they "are prohibited from being engaged internationally," he said. Their viability and their "ability to create new technologies to make us safe" would be "compromised if those companies were to relocate in other countries that don't have the same restrictions [as the United States] because they have modernized their national security assessments" that are the basis for export controls, he said at the June 9 Senate Foreign Relations Committee hearing. He asked Tauscher to "review these programs to make sure that we're not disadvantaging American companies" but also to avoid any action that would be "inconsistent with our national security interests, which obviously comes first."
「技術の発展はほとんどが国際的に進められているのだから、そうした技術の発展に国際的に関わることが禁じられてしまえば、企業は苦しむことになる」とカルダン上院議員は指摘する。また、カルダン上院議員は、6月9日の上院外交委員会の公聴会で、「米企業は、国内の安全評価の近代化を進めてきた。我々の安全を確保するための新たな技術を生み出す企業の活力と能力が制限されるのは、企業が海外に移転し、移転先に米国と同じような規制が存在しない場合に限るということが、輸出管理の原則であるはずだ」とも述べている。一方で、カルダン上院議員は、タウシェル国務次官に「米企業の利益を損なってはならないが、安全保障上の利益が最優先されることは明白だ。安全保障上の利益と合致しない、いかなる行動も避けるという点を確認するため、輸出管理政策を見直してほしい」とも要請した。

Tauscher said she planned to review U.S. export control policies. She stressed her commitment to protecting dual-use technology on national security grounds, a stance echoed by the GAO report, which stated that "ensuring the effective protection of technologies critical to U.S. national security" was now considered a "high-risk area." However, like Cardin, she noted the need for a balance between commercial and security interests. U.S. policy, she said, has to find the "sweet spot," at which "we are absolutely protecting the national security items, but at the same time, we're cognizant that there's a war of markets for things that can be taken off the list."
これに対し、タウシェル国務次官は、米国の輸出管理政策を見直す意向であると答えた。その上で、タウシェル国務次官は、GAOの報告書で言及されている「米国の安全保障上、極めて重要な技術の効果的な保護の維持は現在、非常に危うい状態にあると考えられる」という指摘を踏まえ、汎用技術の保護に努めていくとする立場を強調した。しかし、タウシェル国務次官は、カルダン上院議員のように、商業的利益と安全保障上の利益とのバランスを取る必要性にも配慮している。タウシェル国務次官は「安全保障に関わる品目を確実に保護していくよう努めるが、同時に、規制品目リストに含まれない商品が、市場における競争にさらされているということにも目を向けている」と述べ、米国の政策は、双方の「妥協点」を見出していかなければならないと指摘した。

The United States, which currently is the leading producer of advanced military and dual-use technology, has become a primary target for illegal procurement efforts launched by terrorists and foreign governments, the GAO report said.
米国は現在、軍事・汎用先進技術生産の先頭に立つ国であり、だからこそ、違法にそうした技術を獲得しようとするテロリストや外国政府の格好の的にもなっているとGAOの報告書は指摘する。

Speaking at the June 4 hearing, Stupak addressed such concerns, saying he hoped to "discuss ways in which government and business can work together to ensure that our technological advantage is not used to jeopardize the safety of our troops, our allies, and our communities here at home."
6月4日の公聴会では、スチューパク下院議員も同様の懸念を表明している。スチューパク下院議員は「米国の技術の発展が、米軍や同盟国、また米国社会の安全を脅かすために使われることがないよう、政府と企業が協力できないか議論してほしい」と述べた。

The issue of illegal retransfers resurfaced later in the month with the June 11 sentencing of Traian Bujduveanu, a naturalized U.S. citizen, who had been convicted for his role in a conspiracy to export dual-use aircraft parts illegally to Iran. Bujduveanu, the owner of Orion Aviation, was sentenced to 35 months in prison for helping to smuggle parts of F-14 fighter jets, Cobra AH-1 attack helicopters, and CH-53A military helicopters.
軍事・汎用技術の違法な再移転という問題は、再び表面化することとなった。米国に帰化したトライアン・ブジュベアヌ氏は、イランに軍用機の部品を、共謀して違法に輸出していた罪で起訴されていたが、6月11日に有罪判決を受けたのだ。ブジュベアヌ氏はオリオン航空の所有者で、F14戦闘機やAH1コブラ攻撃ヘリ、CH53A輸送ヘリなどの部品の密輸に関与していた罪で、2年11カ月の禁固刑を言い渡された。

The Department of Justice has publicly stated that roughly 43 percent of the more than 145 defendants charged in 2008 for violating export controls of restricted military and dual-use technology were attempting to export munitions and other restricted technology to Iran or China.
米法務省によると、2008年には、軍事・汎用品の輸出規制ルール違反で145人以上が起訴されているが、そのうちの43%がイランや中国に兵器や規制品目となっている技術を輸出しようとしていたという。(了)

なお、GAO報告の全文はhttp://www.gao.gov/new.items/d09725t.pdf

2009年7月5日日曜日

オバマ政権が核兵器用の大陸間弾道ミサイル発射実験を実施

オバマ政権となって初の核兵器用大陸間弾道ミサイル(ICBM)
の発射実験が行われたようです。

発射実験が行われたのは「ミニットマン」という
米国が保有する唯一のICBMのIII型。
ミニットマンのIII型ではMIRV
(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle
=複数個別誘導再突入体)となっているのが特徴。
MIRVとは、一つの弾道ミサイルに複数の核弾頭が
搭載できるようになっているもので、
搭載された複数の核弾道がそれぞれ、
違う目標を攻撃できます。
核ミサイルの配備数を増やさずとも、
一発の核ミサイルの攻撃力だけ増やせるというものです。

射程は最大で1万キロメートルあるので
「ミニットマン3」の発射実験は北朝鮮を警戒するものでは?
とも考えられているようです。
確かに、日本などを含む北東アジアの同盟国の
拡大抑止を核のトライアド(陸・海・空配備)の中の
ICBM(=陸配備)により実現するという意味では、
北東アジアの核危機を想定した実験ともいえるでしょうが、
この実験は同時に、中国を刺激しかねない。

5月の初頭に発表されたオバマ政権のNPR(核態勢見直し)
の内容に影響を与えるであろうといわれている
戦略態勢委員会の報告書でも指摘されていることですが、
米国は、中国と軍事衝突する可能性は低いという認識であるため、
そうした安全保障環境を崩すようなことは、
避けたいところでしょう。

ですので、今回の実験は、表向きは
単純に、ミニットマン3のLife Extension(寿命延長)の
ためのものとするでしょうね。
米国は、ミニットマン3を、
少なくとも2020年まで運用する計画です。

以下は、ミニットマン3の発射実験について報じた
AP通信の記事です。

U.S. Air Force Test Fires Missile From California Base
米空軍、カリフォルニア州の空軍基地からICBMの発射実験を実施


Monday, June 29, 2009
Associated Press

VANDENBERG AIR FORCE BASE, California — The Air Force successfully launched an unarmed Minuteman 3 intercontinental ballistic missile Monday from the California coast to an area in the Pacific Ocean some 4,200 miles away.
カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地:米空軍は6月29日、核兵器用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマン3」の発射実験に成功した。発射実験に使われたミサイルには核弾頭は搭載されていない。カリフォルニア沿岸から発射されたミサイルは、約4200マイル(6700キロ)離れた太平洋上の目標に着弾した。

The ICBM was launched from Vandenberg Air Force Base near Santa Barbara at 3:01 a.m. and carried three unarmed re-entry vehicles to their targets near the Kwajalein Atoll in the Marshall Islands, said Lt. Raymond Geoffroy.
米空軍のレイモンド・ジョフロア中佐によると、ICBMは午前3時1分、カリフォルニア州サンタバーバラの近くにあるヴァンデルバーグ空軍基地から発射されたという。再突入体を3つ搭載したICBMは、マーシャル諸島のクワゼリン島付近にある目標に着弾した。

The missile, configured with a National Nuclear Security Administration Test Assembly, was launched under the direction of the 576th Flight Test Squadron, whose members installed tracking and command destruct systems on it to collect data and meet safety requirements.
ミサイルは国家核安全保障局の実験協議会により設定され、データ収集や安全性要求を満たすことを目的に、追跡システムや指令破壊装置を設置した要員で構成される第576飛行試験隊の指揮の下、発射された。

"It's really something when you see a truly outstanding team come together," Col. David Buck, 30th Space Wing commander, said in a written statement. "I couldn't think of a better team to demonstrate the awesome capability of our ICBM fleet."
第30宇宙航空団司令官のデービッド・バック大佐は声明書の中で、「真に優れたチームが協力しているのを見られたのは、本当に素晴らしいことだ」と述べ、「ICBMの驚くべき飛行能力を実証できたチームは、他にいないだろう」と強調した。

On clear mornings the missiles in such tests can be seen as far away as Los Angeles 140 miles away, but a foggy coast Monday made the missile difficult to see even in the immediate area, Geoffroy said.
一方、ジョフロア中佐は、晴れた朝にミサイル発射実験を行った場合、140マイル(224キロ)離れたロサンジェルスほどの距離を飛行している場合でも目視可能だが、月曜は沿岸に霧が発生しており、沿岸付近でさえミサイルの飛行を確認するのが難しかったと語る。

The Air Force says the launch was an operational test to check the weapon system's reliability and accuracy, and the data will be used by United States Strategic Command planners and Department of Energy laboratories.
米空軍は今回のICBM発射実験について、核兵器システムの信頼性と確実性の確認が目的だったと説明した。今回の実験で集められたデータは、米戦略軍と米エネルギー省の研究所で活用されることになる。

"These are dangerous times we're living in right now," Lt. Col. Lesa K. Toler, commander of the 576th, said in a statement. "It's extremely important our combatant commander has the capabilities he needs to perform the mission of fighting and winning our nation's wars."
第576飛行試験隊の司令官であるレサ・K・トーラー中佐は声明の中で、「我々は今、物騒な時代を生きている」と述べ、「統合軍司令官は戦争に戦い、勝つための作戦を実施する際に、必要な能力を備えておくことが極めて重要だ」と指摘している。(了)

ところで、読売新聞が最近、以下のように報じていました。

「核の傘」日米協議へ、月内にも初会合

7月8日3時8分配信 読売新聞

 【ワシントン=飯塚恵子】日米両政府は7日、米国の「核の傘」を巡る両国の協議の場を初めて正式に設け、月内にも初会合を開く方向で検討を始めた。複数の日米関係筋が明らかにした。
 
 外務、防衛両省と米国務省、国防総省の局次長・審議官級の枠組みとする方向で、協議では、有事の際の核兵器の具体的な運用に関して日本側が説明を受け、オバマ大統領が目指す大幅な核軍縮と核抑止の整合性などを話し合う。

 日本に対する「核の傘」は、日米安全保障条約に基づき、米国が保有する核兵器によって日本に対する第三国からの核攻撃を抑止する仕組みだ。米国は、同様の仕組みを持つ北大西洋条約機構(NATO)諸国とは、有事の際の核兵器の運用や手順などの具体的な情報を共有している。 これに対し、唯一の被爆国である日本では、国民に核兵器への抵抗感が強く、運用について協議すれば、野党などから強い反発が出る状況だった。また、米側には日本の機密漏洩(ろうえい)への懸念も根強く、日米間ではほとんど議題に上らなかった。
 
 しかし、北朝鮮が5月に2回目の核実験を行い、中国も核戦力の近代化を進めるなど、東アジアの安全保障環境は不安定さを増している。米韓両国は6月、米国による「核の傘」の韓国への提供を明記する首脳合意文書を交わした。日本政府でも「核の傘」の有用性を再確認し、米側から運用の具体的説明を受けるべきだとの声が高まっていた。 一方、米側では、オバマ大統領が4月、究極の目標として「核兵器のない世界」を目指す考えを表明した。今月6日のロシアとの協議では、12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな取り組みとして、核弾頭配備数を双方が最低レベルで1500個まで大幅削減することで合意した。
 
 新方針は、オバマ政権が12月にまとめる、米史上3回目の「核戦力体制見直し(NPR)」に反映される予定だ。日本としてはこの時期までに、有事に備えた「日米共同作戦計画」に核兵器使用がどう組み込まれているかなど運用について説明を受けたうえで、日本側の要望を伝える考えだ。NPRの全容は非公開で、協議内容も基本的には公表されない見通しだ。
最終更新:7月8日3時8分

「拡大抑止をめぐり、米国は日本と話し合うべきだ」とは、
戦略態勢委員会の報告書でもいわれていたことですが、
上の読売新聞の報道と、オバマ政権が実施した
ミニットマン3の発射実験は、無関係ではないのでしょう。
今後、核兵器の削減が進んだ後も、
原子力潜水艦を寄港させるかどうかという厄介な話以前に、
ICBMでも日本の拡大抑止は可能である
ということを、ミニットマン3の発射実験の成果を根拠に
米国側から説明される…ということになるのかもしれません。

2009年5月31日日曜日

"Lead but hedge..." クリントン政権時のスタンスの延長線上にあるオバマ米大統領の核軍縮政策

オバマ米大統領が4月に、プラハでの演説で
「核兵器のない世界」を目指すことを表明してから
核軍縮の機運が高まっているといわれています。

しかし、「核兵器ゼロ」という長期的な方向性が示されはしたものの、
米国の核兵器政策の中身が、どのようなものになるのか?
…まだはっきりとしたことは言えないというのが、
現状ではないかと思われます。

今年8月に米国の「核態勢見直し(Nuclear Posture Review=NPR)」が
発表されるとの噂であり(本当に8月にNPRが出されるのかどうか?
見通しは、まだ、不透明のようですけど)、NPRが出されれば、
オバマ政権の核兵器政策の姿が見えてくることでしょう。
つまり、NPRが出されて、はじめて、
オバマの「核兵器ゼロ」を本格的に評価できると言えます。

さて、これから出されるNPRに、大きな影響を与えるであろう
報告書が、5月の初頭に公表されています。
米議会によって指定された委員により構成される戦略態勢委員会
(Congerssional Commission on U.S. Strategic Posture)
の中間報告書です。

米国防長官に、NPRを今年中に実施し、議会に報告書を提出するよう
求めているのは、08会計年度国防授権法なわけですが、
08会計年度国防授権法には、同時に、戦略態勢委員会の設置について
定めた規定も盛り込まれています。
08会計年度国防授権法に基づき設置された
戦略態勢委員会が、核兵器政策を含む戦略態勢についての
見直しを実施し、5月に大統領や議会などに
中間報告書を提出したというわけです。
以下のHPから報告書の要約と全文を入手することができます。
http://www.usip.org/strategic_posture/final.html

NPRが出される前ではありますが、
戦略態勢委員会の報告書も、また、
オバマ政権の核兵器政策の中身を知る
糸口となるだろうと考え、その内容を見てみたいと思います。

ただ、報告書は180ページほどあるため、
いつものように逐一翻訳して…というのは、さすがにきつい。
ですので、これまでとは趣向を変え、
報告書の内容と論点を要約してまとめるとともに、
エディが思うところも書いてみます。

まず、注目したい点は、
戦略態勢委員会の委員長に指名されているのが、
元米国防長官であるウィリアム・ペリー氏(民主党)であるということです。

ご存じの方も多いと思いますが、ウィリアム・ペリー氏は、
ヘンリー・キッシンジャーやサム・ナン、ジョージ・シュルツ氏らと連名で、
「核兵器ゼロ」の議論の火付け役ともいわれる論文を、
米紙ウォールストリート・ジャーナルに寄稿していることで知られています。

ウィリアム・ペリー氏が委員長だということは、
戦略態勢委員会の報告書も、きっと、
核軍縮に向けた意欲的な内容になっているだろうとの
期待を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

が、残念ながら、戦略態勢委員会の報告書は、
「オバマ演説で核軍縮の機運は高まった!」
と色めき立っている人の失望を誘いかねない、
極めて現実的な内容となっています。

I. "Lead But hedge(核軍縮をリードするが、抑止もする)"

オバマのプラハ演説は、
言っていることが二律背反しているのでは、
との印象を抱かせるようなものでもありました。

つまり、オバマ大統領は、
「核兵器のない世界を目指す」
と一方では言いながら、同時に、
「安全で、かつ、確実であり、効果的な核戦力を維持し続ける」
とも主張しているわけです。
「オバマは核兵器をなくしたいのか、持ち続けたいのか、どっちだ?」
と混乱してしまいそうな、この矛盾したように聞こえる言い分が、
オバマ政権の核兵器政策を分かりにくくさせていると思われます。

しかし、オバマ大統領の、この、二律背反していると
感じさせる主張は、実は、クリントン政権の時から変わらない、
一貫した米国の核兵器政策の
基本的なスタンスであるということのようです。
戦略態勢委員会の報告書の、
ウィリアム・ペリー委員長により書かれた序文で、
この点について触れられています。

ペリー委員長によると、クリントン政権のNPR(1994年)で示された
冷戦終結後の米国の核兵器政策を支える考え方が…

"Lead but hedge"

…なのであり、オバマ大統領のプラハ演説も
この考え方の延長線上にあるのだそうです。
"Lead but hedge"を字面通り邦訳すると、
「リードする。しかし、保証もする」
となるのでしょうか?

"Lead"とは、米国が、
核兵器の過剰備蓄によりもたらされる危険を減らしていくための、
協調的な取り組みを主導していくことであり、
核軍縮と核拡散の防止を
米国が先頭に立って進めていくということのようです。

"Hedge"とは、急な情勢変化により、
事態が悪化するというようなケースに対応するため、核戦力を保有し、
核抑止力を維持しておく(=核兵器による保証)
ということのようです。

なお、戦略態勢委員会の報告書によると、
この"Lead but hedge"という考え方は、クリントン政権だけに限らず、
ブッシュ政権時においても、ロバート・ゲーツ氏が国防長官に就任した際
(ゲーツ氏はオバマ政権でも引き続き国防長官を務めていますが)、
その意義が再確認され、ブッシュ政権の核兵器政策にも、
引き継がれることになったのだそうです。

オバマのプラハ演説も
①「米国は核兵器のない世界の実現に向けた、確実な一歩を踏み出す」
=Leadの部分と
②「米国は安全、かつ、確実で、効果的な核戦力を保有し続けなければならない」
=Hedgeの部分の二つが柱となっていることから、
クリントン、ブッシュと続いた前政権の考え方と、
根源的な部分では、何も変わっていないと言えそうです。

日本の論調の中には、オバマ演説のleadの部分にだけ注目し、
過剰すぎるほどの期待を寄せたり、
逆に、Hedgeの部分にだけ注目し、
失望感をあらわにしたり、冷淡な批判をしていたりするものも
見られますが、Leadの部分とHedgeの部分を個別に分けて捉えた評価は
あまり意味がないでしょう。

むしろ、LeadとHedgeが有機的に連関し、
オバマ政権の核兵器政策の全体を構成している
と捉えた方がよいと考えます。

II. 拡大抑止(Extended Deterrence)の要請

戦略態勢委員会の報告書によると、
オバマ政権の"Lead but hedge" policyとは、
将来的に核兵器の廃絶を可能にさせる環境を醸成するための
取り組みを主導していくと同時に、
核兵器が存在し続ける限りは、米国「単独での」
核の武装解除はせず、「強力な核抑止力」を維持する
…と、説明されています。

では、オバマ政権が上記のような
"Lead but hedge" policyを採用するのはなぜなのか?
戦略態勢委員会の報告書は
以下の5つの理由を挙げています。

①核テロリズムの脅威
②核拡散の脅威

…以上の二つは、クリントン政権のNPRでも言及されていたものですが、
今もなお、これらの脅威の阻止・防止のための
包括的な取り組みを継続すべきだとされています。

①と②の脅威は、近年、特に、非国家主体
核兵器を入手してしまうという事態を防ぐ
という意味合いで、強調されてきたものでもあります。
こうした観点との関連で、核廃絶推進派の中には、

「現在は核テロリズムが最大の脅威であるといわれているのだから、
テロリストのような非国家主体には核抑止力は意味をなさず
核物質をテロリストの手に渡らないようにするというのであれば、
核兵器そのものを完全に廃棄した方が有効ではないか」

…と主張する者もいます。

確かに、テロリストに核抑止力は通用しないとの主張は、
まったくその通りだと思います。

戦略態勢委員会の報告書においては、
「予測可能性(predictability)」という言葉が、しばし、登場します。
つまり、冷戦期の核抑止力における、いわゆる「核の平和」という状態は、
核攻撃に対して、報復攻撃が行われ、
その結果として、双方に甚大な被害が生じるという
「予測が可能」であったからこそ成立していたといえます。

一方、テロリストが相手だと、こうした予測は成立しません。

テロには自爆テロもあるように、テロに至る行動の心理の中には、
「報復に対する恐怖心」がない場合もある。
ですので、核兵器を保有し、
核攻撃に対する第二撃能力を持っているからといって、
このことが、核テロを起こそうとするインセンティブの
抑止にはならないでしょう。
また、テロリストが核兵器を入手し、それを用いてテロを起こしたとして、
では、それに対する報復を、そもそもどこを、そして、誰をターゲットに
行えばよいのか分からないということも起こり得るでしょう。

従って、①と②については、核テロの「事前の阻止」が重要なのであり、
核不拡散措置の強化が求められるということになるのでしょう。
つまり、"Lead"としての核兵器政策の側面が強く、
核物質の削減と厳格な管理を通じた核テロの阻止・防止という意味で、
核軍縮と軍備管理による核不拡散政策が要請されるということになります。

しかしながら、"Lead"だけでなく"Hedge"も必要となるのは、
結局のところ、核抑止力は依然、必要であるとの認識があるためです。

①と②に加えて、戦略態勢委員会は…、

拡大抑止の要請

…をオバマ政権の核兵器政策を構成する要素の一つとして挙げています。
つまり、米国の同盟国を守るための核抑止力のことであり、
北東アジアと中東の核危機が念頭に置かれています。
戦略態勢委員会の報告書によれば、
オバマ政権は、同盟国を核の傘で守る拡大抑止の責務を
負うことが望ましいと考えられているようです。

これとの関連で注目したいのは、戦略態勢委員会の報告書の…
A quick survey of the potential nuclear nuclear candidates in Northeast Asia and the Middle East brings home the point that many potential proliferation candidates are friends and even allies of the United States. A decision by those friends and allies to seek nuclear weapons would be a significant blow to U.S. interests.(p. 10)
…という記述です。
上記は、ざっと訳しますと、
北東アジア、ないし、中東において、核兵器開発が可能な
潜在能力を有する国の多くは、米国の友好国、もしくは、同盟国なのであり、
そうした友好国・同盟国が核兵器保有の道を選択してしまったら、
それは米国の国益にとって、深刻な打撃となる
…といったことが指摘されている部分です。

つまり、中東と北東アジアの米国の友好国・同盟国で、
核兵器開発が可能である国が、
核兵器を持ってしまうというシナリオを避けるためにも、
米国が拡大抑止の責務を負担する必要があるということのようです。

北朝鮮のミサイル・核問題との関連で、日本の核武装論を主張する者もいますが、
日本の核武装は、米国にとって望ましいことではない。
日本を含む同盟国、ないし、友好国が
核兵器を保有する必要がないよう、米国が拡大抑止をしてあげる…
戦略態勢委員会の報告書の上記のような指摘は、
つまるところ、そう言っているように聞こえます。

さらに、拡大抑止の責務を米国が負担する必要がある
とする考え方は、核の先制不使用(Non-first Use, NFU)と
ミサイル防衛をめぐる議論にも影響しています。

NFUは、インドや(まったく信頼されてはいませんが)中国が
宣言しているもので、
日本の川口順子とオーストラリアのギャレス・エバンス両元外相が
共同議長を務める核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)も
2009年から12年までのスパンで達成すべき短期的目標として
「米国のNFU宣言」を提案しています。

が、戦略態勢委員会の報告書は、
米国がNFUを宣言すれば、
拡大抑止で守っている同盟国に、不安を抱かせたり、
また、核抑止力には、生物・化学兵器による攻撃の抑止という意味での、
潜在的な機能もあるのであって、
米国がNFU宣言をすることにより、
そうした意味での核抑止力の機能が損なわれかねない
…などの理由を挙げ、消極的な論調を展開しています。

一方で、ミサイル防衛について、
戦略態勢委員会の報告書では、
"limited threat(限定的な脅威)"に対処するもの
という点が強調されています。

つまり、戦略態勢委員会は、
中・短距離ミサイルに対するミサイル防衛の役割を支持する一方で、
長距離ミサイルに対しては、北朝鮮やイランのような国を
想定して、システムの有効性を確保すべきであり、
ミサイル防衛は、これ以外の脅威に対処できるものではない(incapable)
と指摘しています。

同時に、戦略態勢委員会の報告書は、
ミサイル防衛が"limited threat"に対処するものであるということを
ロシアと中国に分かってもらえれば、
両国の米国に対する懸念を払拭できるとともに、
ミサイル防衛に関連する米国の戦略に理解を示してくれるだろう
との見方を示しています。
さらに、ロシアと中国も巻き込んだ、協調的なミサイル防衛の枠組みを
構築していくことが必要であるとも提案しています。

さて、オバマ政権の核兵器政策を構成する残り二つの要素として、
戦略態勢委員会の報告書が挙げているのが、
④中国と、⑤ロシアです。

戦略態勢委員会の報告書は、
中国とロシアに対して抱いている懸念として、
両国が兵器の近代化を進めようとしていることを指摘しています。
ロシアの場合は、通常戦力における米国とのギャップを埋めるため、
非戦略核戦力(NSNF)の役割を重視している点にも注目しています。

結局のところ、現在の安全保障環境を鑑みた場合、
米国が将来的に、無期限に(indefinite)に、核抑止力を維持し続ける…
という結論が導かれることも、一つの選択肢として、
あり得るのだということになっています。

III. 核兵器の装備更新時期というタイミングでの核軍縮論

オバマの「核兵器ゼロ」は、どういうタイミングで表明されたものなのかを
知ることも重要でしょう。

世界中にある核兵器の9割を、米ロが占めているといわれていますが、
米ロが保有する核兵器のかなりの量が寿命を迎えており、
廃棄が待たれている時期が、今であるわけです。
つまり、廃棄が必要な核兵器が大量にあるのであれば、
当然、核兵器の大幅削減も視野に入ってくる。
オバマの「核兵器ゼロ」は、そうした状況の中で表明されたものである
という点を、念頭に置いておく必要があります。

廃棄せずとも、寿命を迎えた核兵器を復元し(Remanufacture)、
寿命を延ばせばよいではないか(Life Extension)
という考え方もありますが、
戦略態勢委員会の報告書によると、
廃棄が待たれている核兵器を復元し、寿命を無期限に延ばせる
可能性は、わずかであるとされています。

核兵器の多くは復元を想定し、設計されていないということが、
その理由です。
過去に製造され、現在、寿命を迎えた核兵器を復元するとなると、
すでに時代遅れとなった機資材や技術を複製することにもなりますし、
設計上の制約故に、現在の先進技術を活用することもできない
…と、戦略態勢委員会の報告書は、
RemanufactureとLife Extensionの問題点を指摘しています。

ただ、先ほども触れたように、
米国は同盟国を守るための拡大抑止の責務を負担することと、
ロシアと中国の動向を踏まえた核抑止力の維持の必要性が
留意されていました。
従って、既存の核兵器の多くが寿命を迎えることに便乗して、
核兵器の廃絶という段階に一気に飛ぶということにはならず、
オバマ大統領が何度も口にしているような、
「安全、かつ、確実で、効果的な核戦力」を維持するための
研究・開発は、これからも必要になる。

そのためのアプローチとして、
戦略態勢委員会の報告書で挙げられているのが、
核兵器の装備"Refurbishment(更新)"
と"Modernization(近代化)"です。

戦略態勢委員会の報告書によると、
「更新」と「近代化」という選択肢は、
既存の寿命を迎えた核兵器の単純な造り直しなのか、
はたまた、まったく新しいものに造り替えるのか
といった二者択一的な、凝り固まったものではなく
(=not stark alternative)、今ある核兵器の部品や設計を生かしながら、
必要に応じて、新しい部品や設計も組み合わせていくというような
やり方もあり得るということが示唆されています。
つまり、個々の核兵器の装備状況を踏まえた、
ケース・バイ・ケースの判断に基づいて、
核兵器装備の「更新」と「近代化」を
進めていくことが必要であるということになっています。

一方で、性能と安全性をさらに引き上げるため、
既存の核兵器の設計から、まったく新しくするというアプローチについて、
戦略態勢委員会の報告書は、
こうしたアプローチが実際に採用された事例は
見当たらないと指摘しています。
これとの関連で思い出されるのが
「信頼できる代替核弾頭(Reliable Replacement Warhead, RRW)」
の開発計画です。

オバマ政権はRRW開発の停止を公式に決定していますし、
米議会もまた、かねてからRRWの開発を
支持してきてはいませんでした。
米国は1993年以降、現在まで核実験モラトリアムを継続していますが、
実験を経ていない核弾頭を開発することで、将来的に核実験を行う
必要に迫られることになるのではないかとの懸念があることに加え、
核不拡散に向けた取り組みにおける米国の信頼性を損なう恐れもある
…というのが、米議会のRRW不支持の理由です。

半面、オバマ政権がRRWの開発停止を決定したことに対する戸惑いは、
まだ見られると戦略態勢委員会の報告書は指摘しています。
つまり、RRWの開発を停止することが、
核兵器の安全性と信頼性を高めようとする試みの妨げになるのではないか
…との不安がある。
また、戦略態勢委員会の報告書によると、
一口にRRWといっても、人によって定義が違うということも、
混乱を招く要因になっているようです。
ある者は、RRW開発計画とは、トライデントに搭載されている
老朽化したW76核弾頭の再整備計画だと語り、
またある者は、米国が保有する核兵器すべてを新しくし、
性能と安全性を向上させるための包括的な計画だと説明し、
さらにある者は、核弾頭の製造プロセスを単純化するとともに、
老朽化により安全性が低下した危険な核物質を減らしていきながら、
核兵器の生産複合体を転換していくというのがRRWであると考えている。

結局のところ、どういう意味でのRRWの開発が停止されたのかは
はっきりとせず、核兵器の信頼性と安全性の向上の
必要性が否定されているわけでもないので、
何かしらの形でのRRWが再び姿を現し、
開発計画が進められることもあり得ると考えられます。

IV. CTBTの批准については、賛否分かれる

RRWの開発計画は、新たな核実験実施の
必要が求められる可能性も高く、
米国が包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准すべきかどうか
という議論にも関わってきます。

オバマ大統領はプラハ演説で、 CTBTの批准を、
議会に呼び掛けると表明し、関心を集めました。
RRWの開発停止を公式に決定したオバマ政権が、
引き続きCTBTの批准を目指すというのは、
論理的にも自然な流れだと思われます。

一方、戦略態勢委員会の報告書では、
米国がCTBTを批准すべきかどうかをめぐり賛否が分かれ、
まとまった見解が出せず、
ひとまず、CTBTの批准賛成派と反対派の意見を
列挙するという形にとどめています。
以下は、戦略態勢委員会の報告書で列挙されている
CTBTの批准賛成派と反対派の見解です。

<賛成派>
①過去に実施された核(爆発)実験で得られた知識と
1993年以降、核実験モラトリアムを継続してきた間も、
94年から行われてきた核備蓄管理計画
(=Stockpile Stewardship Program)により、
追加的な核実験を行わずとも、米国が保有する核兵器の
安全性と信頼性を維持することができるとの確証が得られている。
従って、CTBTを批准しても、米国の核兵器政策に影響はない。

②CTBTを批准したとしても、脱退もできる。
核兵器の安全性と信頼性を確保するため、
将来的に核実験が必要であるのなら、脱退すればいいだけだ。

③CTBTという条約レジームの制約が国際社会にないことの方が、
米国に対する脅威が拡大する可能性が高い。
実際、米国科学アカデミー(National Academy of Science)は
2002年に、以下のように指摘しているではないか。

「CTBTの制約を免れ、秘密裏に核兵器開発が
進められることよりも、CTBTという規制の枠組がないまま、
敵対国が核実験を重ね、高度に洗練された核兵器を入手するという
ことの方が、米国にとっては最悪のシナリオだ。
CTBTには監視制度があることに注目すべきだ」

④CTBTの国際監視制度
(=International Monitoring System, IMS)は
多様な検証手段を備えており、効果的だ。
小規模な地下核爆発実験の探知能力も大きく向上しており、
IMSで探知できないようなレベルの核爆発実験を秘密裏に行ったところで、
それにより見出せる軍事的価値はほとんどない。

⑤米国がCTBTを批准することで、
核拡散防止条約(NPT)が第6条で、核兵器保有国に課している義務を
果たし、核軍縮で主導的な役割は担っていることを示すことができる。

⑥米国の批准により、他のCTBTの批准を保留している国に
影響を与えられる。

<反対派>
①米国が核実験をしなければ、核不拡散が進むということが
立証されているわけではない。
米国が核実験を行っていたときには、南アフリカが核武装を放棄したし、
核実験モラトリアムを継続している間には、インドやパキスタン、
北朝鮮などが核兵器開発を進めたではないか。
米国がCTBTに批准しても、北朝鮮やイランは
核開発計画をやめないだろうし、
そもそも、初歩的な核兵器開発であれば、核実験は必要なく、
CTBTを批准しようがしまいが、関係ない。

②CTBTが発効せずとも、米国はCTBTの文言に従うことができる。
CTBTの発効には、北朝鮮やイラン、パキスタン、インド、中国、
イスラエル、エジプトなどの多くの国の調印と批准も必要となるが、
その可能性はゼロに近い。
結果的に、上であげたような国々が制約を免れている一方で、
米国はCTBTの規制に縛られるということになりかねない。

③CTBTは核実験とは何なのかを明確に定義していない。
米国の定義は厳格で、核実験を「核出力を生ずる実験」と定義している。
一方で、他国は、数百キロトン以上の核出力が伴うものを核実験である
と解釈している。
こうした解釈に便乗し、ロシアと、おそらく中国も
核出力5キロトン以下の低出力核実験を行っている。
(※1キロトン=TNT1000トン)

④CTBTの問題点は、「ゼロ出力実験」以外は禁止
ということでは、締約国が合意できないという点だ。
米国科学アカデミーによると、
核出力が1、2キロトン以下の低出力の地下核実験は
探知不可能だという。
そうであるのなら、たとえCTBTが「ゼロ出力実験」以外の実験を
禁止したとしても、秘密裏に低出力核実験を行う国を制止できない。

⑤CTBTの核施設検証についての規定も
修正の余地がある。
検証運営委員会の委員は51人で構成されているが
欧米諸国出身の委員はたったの10人しかいない。
しかも、CTBTは各国に、50平方キロメートル以下の敷地であれば、
検証の対象から外せるよう宣言できることも認めている。

⑥核実験をせずに、核兵器の安全性と信頼性を
維持するのには、技術的なリスクが伴う。
高度な科学技術に基づく核兵器開発計画は
何度も実験を重ねる必要がある。
CTBTを批准することで、核兵器の性能と
安全性の向上のための開発計画の道が閉ざされてしまいかねない。

なお、戦略態勢委員会のウィリアム・ペリー委員長は、
個人的な見解であると断った上で、
CTBTを批准した方が、米国の安全保障の強化につながり、
核不拡散問題における米国の主導的な立場を鮮明にできるとし、
CTBTの批准に肯定的な見方を示しています。(Chaieman's Preface, p.xiii)

興味深いのは、低出力核実験についての
CTBT批准賛成派と反対派の評価(=双方の④の論点)の違いです。

賛成派は、CTBTのIMSで探知できないようなレベルの
低出力核実験など、大したことはないと言わんばかりであり、
一方で、反対派は、IMSで探知できないような
低出力核実験を秘密裏に行われては、たまったものではないと、
低出力核実験にそれなりの深刻性を見出しているかのような
主張を展開しているように見受けられます。

ここで思い出されるのは、5月25日に北朝鮮が実施したという
核実験に対するオバマ政権の対応です。
「挑発に見返りなし」と強気のオバマ政権は、
北朝鮮程度が行う低出力核実験など、取るに足らずと
考えているようにさえ見えます。

ブレア米国家情報長官によると、
今回の北朝鮮の核実験による爆発規模は数キロトンで、
北朝鮮が核兵器保有国としてのステータスを得られるほどの
成果は、今回の核実験でも見られなかったという評価です。
2006年のときの北朝鮮の核実験は、
1キロトン未満の小規模で、失敗したとの見方が強いですが、
2006年と今年程度の核実験を北朝鮮が行ったところで、
米国が動揺するような事態にはならないと考えているようです。

つまり、オバマ政権は、CTBT批准賛成派の④の考え方に近く、
軍事的成果がほとんど見られないレベルの
低出力核実験を過度に深刻視して、そうした低出力核実験を
制止できないからとして、CTBTに批准しないという選択を取るよりも、
探知能力が向上した検証制度を備えるCTBTを批准し、
CTBT発効への動きを加速させることで、
CTBTの検証制度をできるだけ早く機能させ、
軍事的成果につながる規模の核実験を、しっかりと監視の下に置きたい
…という立場なのではないかと推察されます。

V. 核不拡散と核の軍備管理が密接に関連

オバマ大統領がCTBTの批准にこだわるのは、
CTBTが備えるIMSをできるだけ早期に機能させたいからではないかと
考えるのには、それなりの理由があります。

ロシアと始めようとしている新たな戦略核削減の合意枠組み交渉など、
核軍縮」の話をする際、オバマ大統領は必ず、
効果的な検証」という言葉とセットにして語っているためです。
つまり、CTBTのIMSに着目した場合、
CTBTもまた、核軍縮のプロセスを確実にするための
効果的な検証枠組みの一つとなると考えられるのでは…
というわけです。

さて、核軍縮といった場合、
「核兵器を何発減らすのか」というような、
削減数にばかり焦点が当たりがちですが、
核軍縮を語る際、数はそれほど重視されていない
という点に注意が必要かもしれません。

もっと言えば、先にも述べましたように、
米ロ(だけではありませんが)が保有する核兵器の多くが
寿命を迎えているため、装備更新を進めるにしても、
現存の核兵器の大幅削減は、避けられない状況にあるわけです。
今や、冷戦期の核軍拡競争時代とは思考が異なり、
核兵器をたくさん持つということに、軍事的価値を見出してはおらず、
規模が小さくなった核戦力で、
いかにして効果的な核抑止力を機能させていくのか
…という点に関心が移っているわけです。
この点は同時に、日本の防衛戦略とも大きく関わってくるため、
見逃すことはできません。これについては、後述します。

戦略態勢委員会の報告書における以下の指摘は、
核軍縮を進める前提として、厳格な軍備管理が重要である
ことを示している部分ですが、
核軍縮論議の焦点を、削減される数に置いていないということが
示唆されていると感じる指摘でもあります。

...Numbers are not the main point-stability,
security, verification, and compliance are.(p.66)
数が重要なのではない。安全、かつ、確実で、
検証が伴う形で管理され、ルールが履行されているという
ことの方が重要なのだ

つまり、核の厳格な軍備管理と核の拡散防止は密接に関連しており、
核不拡散を求めるのであれば、
まずは核の軍備管理の強化が必要である
…という考え方のようです。
そのためにも、NPTやCTBTなどの国際的な条約レジームを
最大限に生かしていくというオバマ政権の立場は、
前のブッシュ政権とは大きく異なる部分でもあります。

戦略態勢委員会の報告書は、
米大統領が自身の「強大な権限(bully pulpit)」を行使してでも、
核不拡散のための具体的な政策を提示すべきだと強調しています。
特に来年開かれるNPTの再検討会議は最大の山場であり、
NPTの再検討会議で米国がリーダーシップを発揮すべく、
今から準備を進めるよう勧告しています。

その他、核不拡散の分野で、
米国がリーダーシップを発揮すべき課題として、
戦略態勢委員会の報告書は、以下を挙げています。

①国際原子力機関(IAEA)の強化
②核弾頭の情報と備蓄量についての透明性を確保するための
グローバルな取り組みを、米国が率先垂範し、主導していく
③核兵器開発に使われる兵器用分裂性核物質の生産を禁止する条約の
成立を目指す
④不安定な核施設に補完されている核物質の管理強化、
ないし廃棄を進める脅威削減計画のための予算の増大
⑤拡散リスクを最小限に抑えることを目指す
将来の核エネルギー生産に向けた国際的な取り組みの進展

以上の点について、差し当たり注目したいのは①と⑥です。
①と⑥はNPTの検証システムが抱える問題と
NPTをめぐる交渉の折りに顕在化する意見の対立とも
関わっているためです。

①の「IAEAの強化」といった場合、そこには二つの意味があります。
一つは、IAEAという機関自体の強化であり、
もう一つは、IAEAに与えられている権限の強化です。

NPTは締約国に、IAEAが実施する保障措置
(=平和利用を目的とした核物質の軍事目的転用を防止するために
行われるIAEAの査察などの検証活動)
の受け入れを求めています。
ただし、検証の対象になるのは
締約国が「申告した核物質」に限定されているため、
未申告の核物質を用い、秘密裏に核兵器が進められた場合、
イラク(しかもNPTに加盟しながら)の核兵器開発の例のように、
それを防ぐことはできないという事態にもなり得る。

「NPTは加盟国の核兵器開発さえとめられなかった」

…と批判される所以は、NPTの検証システム自体にあったわけです。

1997年には追加議定書が採択され、IAEAに未申告の核物質を使った
原子力活動が行われていないかどうか確認するための
権限が与えられますが、追加議定書に参加する国を
増やし、普遍化できるかどうかという問題が、依然、残されています。

また、核兵器開発に必要なノウハウや知識が広く
普及してしまった現在、秘密裏に行われる核兵器開発を
阻止するためにも、IAEAにどれだけ踏み込んだ査察権限を与えるのか
…という点は、今も重要な検討課題です。
昨年、フォーリン・アフェーアーズ誌に掲載された
「核兵器ゼロの理論」でも、以下のように指摘されていました。

NPTの根本的な弱点は、核兵器の製造を可能にさせる濃縮ウランとプルトニウムの生産が、民生用の原子力開発のためであると言ってしまえば、許されるということだ。これまでずっと、民生用であれば許されるという考え方に、疑問符が付けられることはなかった。原子炉を運営するための能力を、核兵器開発にも転用するのは、技術的に難しいというのが実情であったためだ(そして、核保有国は、そうした転用技術の大部分を秘密にしてきた)。しかし、状況は一変してしまった。遠心分離機によるウラン濃縮や、原子炉から取り出した使用済み核燃料からプルトニウムを分離するという技術は、今や、広く知れ渡っている。壊滅的な結果をもたらす爆発を引き起こす兵器は、濃縮ウランかプルトニウムのどちらかを、ほんの数キロ手に入れてしまえば作れてしまうのであり、多額の資金を入手できる個人の集まりが本気になって作ろうとすれば、できないことはない。
http://hamisheddietsundoku.blogspot.com/2008/12/blog-post_24.html

査察を実施するIAEA自体も、資金難や人員不足などに
悩まされ続けているという状況が続いており、
これに対し、オバマ政権は「4年間でIAEAの予算を倍増する」と表明しています。
このオバマ政権の方針表明は、IAEAという機関そのものの脆弱さを
克服することを目的としたものですが、
加えて、来年開かれるNPTの再検討会議で、
IAEAの査察権限の方も、さらに強化される方向で話がまとまるのかどうか
注目されているといえます。

そもそも、IAEAの保障措置の受け入れは非核兵器国が負うべき義務であり、
NPTが規定する核兵器国(米、ロ、中、英、仏)だけが、
保障措置を受け入れる義務を免れることができる。
すでに核兵器を保有しているのだから、
今さら、平和利用のための核物質の軍事転用を
監視したところで意味はないだろうということなのでしょうが、
保障措置は核物質の管理に関係するものでもあるので、
普通に考えると、核兵器国が保障措置の下に置かれない
というのは おかしな話です。
当然、現在では、核兵器国もIAEAの保障措置を
受け入れるようになってきてはいますが、
こうしたこと一つとっても、NPTは差別的な条約であると言われ続け、
インドやパキスタンなどが、NPTの不公平性を理由に、
加盟を拒み続ける…ということにもなっているわけです。

イランと欧米諸国との対立に象徴されるような、
核兵器国と非核兵器国との意見の対立には、
NPTの差別的な性質が背景にあるといっても過言ではなく、
オバマ大統領も、「NPTは公平な条約」であるということを、
広く認識してもらうことが重要であると理解しているようです。

例えば、オバマ大統領は、プラハでの演説で、
「NPTで定められた約束事は妥当なものです。核兵器保有国は、
核軍縮に向けて努力し、核兵器を保有していない国は、
核兵器を入手するようなことをしなければ、結果的に、
すべての国が平和的な核エネルギーを獲得することが
できるということなのですから」
…と述べていました。

つまり、NPTが核兵器国に課している核軍縮義務を
想起させることで、NPTは公平性を保っていると言いたい。
そのためにも、オバマ政権の核兵器政策にとっては、
"Lead"の部分を強調しておくことが重要となる。

その上で、オバマ大統領は、同時に、
「核エネルギーの平和的利用は、核兵器を放棄したすべての国の権利です。
特に、核エネルギーの平和利用に取り組む発展途上国に、
この権利が保障されなければなりません」
と述べ、NPTをめぐる交渉で頻繁に見られた
発展途上国側の反発を抑えようとしているようです。

核エネルギーの平和的利用との関連で、
オバマ大統領は、プラハでの演説で、
「拡散の危険を増大させずに、平和的なエネルギーを入手することができる
国際燃料銀行に代表されるような、
民生用の核開発協力のための新たな枠組みを確立すべきです」
と提案していましたが、この部分が、
戦略態勢委員会が、米国がリーダーシップを発揮する分野の例として
挙げていた⑥と関係してきます。

6月18日に閉会したIAEA理事会では、
オバマ大統領の上の主張に賛同したIAEAが
原子力発電用の燃料となる低濃縮ウランを安定供給する「核燃料バンク」
を提案していますが、この提案に対し、発展途上国は反発しました。
つまり、核物質を一元管理したい米国やIAEAと、
核燃料サイクルをできることなら自前でやりたいと考える
発展途上国側との間で、意見が対立した模様です。
結局のところ、核を持つ者に対して持たざる者が抱いている
不公平感を払拭できているわけではなく、
「核燃料バンク」構想を進めるには、
まだまだ前途多難であるといえそうです。

VI. 終わりに

オバマ政権の核兵器政策の特徴は、
戦略態勢委員会の以下の指摘に集約されていると言えそうです。

The Commission sees both U.S. extended deterrence guarantees and the global treaty regime as integral to the achievement of U.S. nonproliferation policy.(p.73)
「米国の核不拡散政策の目的を達成するには、
米国の拡大抑止による核戦力の保証と、
核拡散を防止するためのグローバルな条約レジームの双方が
不可欠であると、戦略態勢委員会は考えている」

つまり、戦略態勢委員会の報告書で
指摘されていることでもありますが、
拡大抑止のための核による保証戦力を維持するという政策と
核の拡散防止を進めるための政策は、同価値なのであり、
この二つの方向の政策を同時に進めていくことにおいて、
オバマ大統領のリーダーシップが求められているというわけです。

ここで、再度、戦略態勢委員会の報告書の概要を
ざっと振り返ってみます。

核拡散の脅威を減らしていくためには、
NPTなどの国際条約が備える核の軍備管理のための
検証システムを強化し、機能させなければならない。
が、NPTは差別的な条約であると考える
新興核兵器国や非核兵器国も多く、
そうした国が抱く不公平感を払拭するためにも、
米国はNPTが核兵器国に課している核軍縮義務を、
積極的に果たしていく必要がある。

半面、現在はまだ、核兵器廃絶を達成できるような
安全保障環境ではないため、
核抑止力を維持することも必要となり、
とりわけ、核軍拡懸念を抱える地域において、
米国の同盟国が、核兵器を保有してしまうという
シナリオを避けるためにも、
米国は同盟国を保護する拡大抑止の責務を
果たさなければならない。

NPTの核軍縮義務を果たしながらの、
また、寿命を迎えた核兵器の
装備更新と廃棄を進めながらの拡大抑止
ということになるため、
核戦力の規模は、当然、以前よりも小さくなる。
故に、小規模の核戦力で、
いかにして拡大抑止を機能させるかが課題となる。

…という具合にまとまるでしょうか。

では、戦略態勢委員会の報告書から読み取れる
オバマ政権の核兵器政策が上のようなもので あるとして、
これが日本の防衛政策に、 どう影響してくるのでしょうか?
特に疑問視されていることは、米国は保有する核兵器を
1000発にまで減らすことを視野に入れていますが、
1000発の核兵器で、日本を含む同盟国の拡大抑止が
果たして可能なのか?…ということのようです。
これとの関連で、戦略態勢委員会の報告書は、
非常に気になる指摘をしています。

In particular, now is the time to establish a much more extensive dialogue with Japan, limited only by the desires of the Japanese government. Such dialogue with Japan would also increase the credibility of extensive deterrence. (p.70)
「特に、今こそ、日本とさらに幅広い対話を持つ時である
日本政府の要望を聞くだけとどまらない、幅広い対話である。
日本とそうした幅広い対話を持てれば、拡大抑止に対する
信頼も得られるだろう」

日本政府はこれまで、米国の核抑止力に依存しつつも、
非核三原則などを盾にし、
実際に米国の核戦力が必要となるような局面で、
核兵器をどう運用するのかといったような
具体論には敢えて踏み込まないようにしてきたと思います。

今後、米国の核兵器が大幅に削減され、
核戦力の規模も小さくなった場合、日本を守るための
米国の拡大抑止の在り方はどうなるのか…
戦略態勢委員会の報告書は、この点をめぐる幅広い対話を
日本とすべきだと言いたいようです。
つまり、米国からすると、核兵器を1000発程度にまで減らし、
規模が小さくなった核戦力でも、
日本をはじめとする同盟国を
拡大抑止で守れることが説明できる…とみていいようです。
だから、戦略態勢委員会の報告書が述べている通り、
日本と踏み込んだ対話を持つことで、拡大抑止に対する
日本の信頼を勝ち取ることができるという見込みさえ示している。

しかし、こうした対話を米国と持ったとしたら、
核戦力の配備の具体的な話に必ずなるでしょう。
そして、核戦力の配備における
日本の協力すら要請されることにもなる。

つまり、核兵器搭載の原子力潜水艦を日本に寄港させるのかどうか
などの具体論に日本が直面することにもなりかねず、
日本政府からすると、このような類の話は、
厄介すぎてしたくはないでしょう。

が、逆に核戦力配備の具体的な話を避け続け、
曖昧なままにし、拡大抑止を機能させるために、
日本は米国と、どのように協力するのかについての
考え方を示さないままでいるとしたら、
結果的に、オバマ政権が、日本を防衛戦略のパートナーとして
信頼しなくなるということになりはしないかとも危惧します。

"Lead but hedge"というスタンスを引き継ぐ
オバマの「核兵器ゼロ」は、日本にとって、
諸手を挙げて、歓迎だけしていられるような代物ではなさそうです。(了)

2009年5月13日水曜日

アフリカで国連平和維持任務などにあたっていた航空貨物機が「武器の密輸」にも関与

大量破壊兵器(WND)の不拡散については、
「拡散阻止のための安全保障イニシアチブ」(PSI)など、
WMDとその運搬手段や、それらの開発・製造に関連する
機微な貨物を運搬する船舶、航空機、車両を
強制的に阻止し、臨検などを行う国際的な枠組みが存在しますが
通常兵器・小型武器の拡散問題の場合は、
こうした枠組みが存在しません。

また、国防や国連の平和維持活動における
治安維持任務などに必要な武器の取引は正当であるとする
考え方が一般的であるとも言え
大量破壊兵器の場合もそうですが、
小型武器、ないし通常兵器の移転を規制する上での
「国際法の欠缺」とも言える現状は、より根強いとも思えます。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告は
PKOや人道支援を隠れ蓑にした武器の密輸があったことを
指摘しているもので、非常に興味深い。

以下、AFPの報道がSIPRI報告に触れているので紹介します。

AFPの記事の最後で引用されているアル・カポネの例は
アル・カポネが禁酒法違反でも殺人でもなく
脱税で起訴されたことに触れ、武器の不正取引規制の在り方の
一つの案を示しているわけですが
この引用が逆に武器取引規制における
「法の欠缺」という現状を浮き彫りにし
では、武器の不正取引という罪に問うのではなく
別の容疑で取り締まればいいではないかと
言っているようにも聞こえたのが面白かったです。

Africa aid shipped in planes 'used for weapons'
アフリカへの空輸支援、「武器の密輸」に利用される


May 11, 2009
http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5gfak07cKoJn2ErozPO3rX5GNTQvw

STOCKHOLM (AFP) — Air cargo carriers used to smuggle weapons to war-torn parts of Africa have also been hired to deliver humanitarian aid and support peacekeeping operations, a leading peace think tank said Tuesday.
ストックホルム(AFP):アフリカの紛争地域に武器を密輸するため利用されていた空輸貨物が、人道援助や国連平和維持活動への支援という名目で運搬されていたことが分かった。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が火曜日に明らかにした。

The Stockholm International Peace Research Institute (SIPRI) said in a report that 90 percent of air cargo companies identified in arms trafficking-related reports had been used by UN agencies, European Union and NATO members as well as leading non-governmental organisations to deliver aid.
SIPRIの報告書によると、国連機関や欧州連合(EU)、もしくは北大西洋条約機構(NATO)に加え、非政府組織(NGO)の要員にも支援物資を送っていたとされる航空貨物会社の90%が、武器の不正取引に関与していたという。

"For example, UN peacekeeping missions in Sudan have continued to use aircraft operated by (Sudan's) Badr Airlines even after the UN Security Council recommended an aviation ban be imposed on the carrier in response to arms embargo violations," the SIPRI report said.
「例えば、スーダンで活動する国連平和維持部隊は、国連安全保障理事会が武器禁輸違反に対する措置として、空輸の禁止を勧告した後でさえも、スーダンのバドル航空会社が運営する航空機を使い続けいていた」とSIPRIは報告書で指摘している。

The report also singled out other African carriers such as Astral Aviation, African International Airlines and the Sudanese-registered Trans Attico as being named in arms trafficking reports.
報告書は他にも、アストラル航空やアフリカ国際航空会社、スーダンで登録されているアッティコ横断航空会社など、武器の不正取引に関わっているアフリカの運送会社の名を挙げている。

It also said several US private security firms hired air cargo carriers and aircraft which have been "involved in the trafficking of arms to militias which the US government have designated 'global terrorists'."
また報告書によると、貨物輸送機や航空機を運用している米国の民間警備会社の中には、「米政府が「グローバルなテロリスト集団」として指定している武装闘争集団への武器の不正取引に関与している」ところもあるという。

The report cited Dyncorp, a company that provides security services for the US government, as having contracted Aerolift, a firm accused by the UN Security Council in 2006 of being involved in arms trading, to supply weapons to an Islamist militia that controls much of southern Somalia.
例えば、報告書は、米政府に警備サービスを提供している米国の民間警備会社「ダインコープ・インターナショナル」が、ソマリア南部を支配するイスラム系の武装闘争集団に兵器を供与する武器貿易に関与していたことを理由に、2006年に国連安全保障理事会から非難されていた航空会社「アエロリフト」と契約していた例を挙げている。

The militant group, Al-Shabab, was added by the US government to its list of terrorist organisations in March 2008 over alleged links to Al-Qaeda.
このイスラム系の武装闘争集団「アル・シャバブ」は、アルカイダとつながりがあるとの疑いで、2008年3月に、米政府によりテロ組織リストに加えられている。

SIPRI's report added that air carriers involved in aid and peacekeeping operations were also used to transport "conflict-sensitive" goods such as cocaine, diamonds and other precious materials.
さらに報告書は、人道援助や国連平和維持活動で運用されていた貨物輸送機がコカインやダイヤモンド、その他の貴重品など「紛争に機微な」物品も輸送していたことを指摘している。

One of the report's authors, Mark Bromley, said that a more rigourous application of the EU's existing air safety regulations could play a crucial role in stemming the flow of weapons to Africa's conflict zones.
報告書の編集者の一人であるマーク・ブロムリー氏は、EUの既存の航空安全規制をより厳格に適用することが、アフリカの紛争地への兵器の流入を食い止める上で、重要な役割を果たすだろうとの見解を示した。

"Air safety enforcement could put hard core arms dealers out of business," Bromley said in a statement.
ブロムリー氏は「航空安全規制の強化で、熱心な武器販売業者をビジネスから除外することができるはずだ」と述べている。

"Our research shows that companies named in arms trafficking-related reports have poor safety records. Safety regulations represent their Achilles heel, and can do to them what tax evasion charges did to Al Capone," he added.
「私たちの研究が示しているように、武器の不正取引に関与している航空会社の航空安全記録は心許ない。航空安全規制は、こうした航空会社のアキレス腱であるとも言え、アル・カポネは脱税の罪で起訴されたのだということを思い知らせることができる」とブロムリー氏は付け加えた。

2009年4月28日火曜日

米国が銃器などの不正取引を防止する条約の批准を目指す

先日の米国のオバマ大統領とメキシコのカルデロン大統領との会談を受け、
オバマ大統領は銃器などの不正取引を防止するOAS条約の批准を
議会に呼び掛ける方針を明らかにしたそうです。

「核兵器ゼロ」に続き、小型武器分野でも、
米国の大胆な方針転換が見られることになるのか?
武器を所持する権利が憲法で定められている米国では
強い反発があることは必至ですが、
注目の動向だと思われるので、関連の記事を訳してみました。

余計な記事まで訳していたので時間がかかってしまいましたが
まずは、フォーリン・ポリシー誌に掲載されていたものから。
同誌はどちらかというと保守的な雑誌なので
オバマ大統領の方針に批判的ですが
憲法修正第2条を、特に保守的な人が
どのように捉えているのかがよく分かります。

続いて、AP通信の記事で
こちらは、オバマ大統領の発表前の話ですが
米国とメキシコが抱える問題の背景などが
簡単ではありますがいろいろと書かれているとともに、
オバマ大統領が大統領選で公約していた
攻撃用銃器規制の禁止復活をめぐる駆け引きの様子も
伝わってきます。

Obama promises to push for Arms treaty
オバマ米大統領、銃器・弾薬・爆発物などの密造・不正取引を防止するOAS条約の批准に意欲

Written by Warren Mass
Friday, 17 April 2009 17:30
http://www.thenewamerican.com/usnews/foreign-policy/1014

Speaking to reporters while standing alongside Mexico’s President Felipe Calderon in Mexico City on April 16, President Barack Obama said he would push the U.S. Senate to ratify a treaty called the Inter-American Convention against the Illicit Manufacturing of and Trafficking in Firearms, Ammunition, Explosives and Other Related Materials. The convention, known by Spanish acronym CIFTA, was by inter-American countries including the United States in 1997 and then submitted the following year to the U.S. Senate for ratification. Like all treaties, it would require a two-thirds majority (67 votes) in the upper house to secure ratification.
バラク・オバマ米大統領は16日、メキシコのフェリペ・カルデロン大統領とともに共同記者会見を行い、銃器・弾薬・爆発物・その他の関連部品の密造・不正取引防止のためのOAS(米州機構)全米条約(CIFTA)の批准を上院に呼び掛ける意向であると述べた。同条約はスペイン語の頭文字を取ったCIFTAとして知られており、1997年に米国をはじめとする米州諸国により採択された。その翌年には、議会批准手続きのため、米上院に提出されている。上院での批准には、3分の2以上の過半数(67票)の賛成票が必要だ。

“Something that President Calderon and myself absolutely recognize is that you can't fight this war with just one hand,” Obama told reporters, including Reuters news service, which quoted him. “At a time when the Mexican government has so courageously taken on the drug cartels that have plagued both sides of the border, it is absolutely critical that the United States join as a full partner in dealing with this issue,” said Obama. “I am urging the Senate in the United States to ratify an inter-American treaty known as CIFTA to curb small arms trafficking that is a source of so many weapons used in this drug war,” the president continued.
「カルデロン大統領と私は、両国が協力しなければ麻薬との戦いを進めることができないとの認識で一致した」。オバマ大統領は、ロイター通信をはじめとする記者団を前に、こう語った。オバマ大統領は「両国の国境にまたがり猛威を振るう麻薬カルテルに、メキシコ政府が果敢に戦いを挑んでいるときに、米国もメキシコ政府を全面的に支えるパートナーとして、この問題に取り組んでいくことが、極めて重要である」と強調し、「麻薬絡みの暴力に使われている銃器の不正取引を阻止するためのCIFTAを批准するよう、上院に要請する」と続けた。

The theme of the United States sharing responsibility for the Mexican drug trade (including the shipment of arms from the United States to Mexican drug cartels) was not unexpected, since upon her arrival in Mexico City on March 25, Secretary of State Hillary Rodham Clinton accepted blame on behalf of the American people for Mexico’s drug cartel problems, telling reporters: “Our insatiable demand for illegal drugs fuels the drug trade. Our inability to prevent weapons from being illegally smuggled across the border to arm these criminals causes the deaths of [Mexican] police officers, soldiers and civilians.” “I feel very strongly we have a co-responsibility,” she added.
メキシコの麻薬との戦い(米国からメキシコの麻薬カルテルに銃器が輸出されている問題も含む)に、米国が共闘する責任を負うことは、予期されていた。ヒラリー・ロッドハム・クリントン米国務長官が3月25日にメキシコシティを訪問した際、米国民を代表し、メキシコの麻薬カルテルをめぐる非難を聞き入れ、記者団に次のように語っていたためだ。

「違法ドラッグを欲する米国の強欲な欲求が、麻薬の不正取引を煽っている。銃器が違法に密輸され、国境を超えて、麻薬カルテルの手に渡るのを阻止できなかったため、メキシコの警官や兵士、国民が殺害されるという結果を招いてしまった。米国はメキシコと協力する責任があると、強く感じる」

However, the subject of the arms treaty was not mentioned in advance of Obama’s visit and appears to have taken even members of the White House press corps by surprise. During a press briefing held in a Marriott Hotel in Mexico City on April 17, Sheryl Gay Stolberg of the New York Times asked Denis McDonough, deputy national security advisor for strategic communications, if the administration wasn’t catching even the Senate, much less the press and public off guard. A transcript follows:
一方、CIFTAについては、事前に何の言及もなく、大統領官邸担当の記者団すら驚愕させた。17日にメキシコシティのマリオットホテルで行われた記者ブリーフィングでは、ニューヨークタイムズ紙のシェリル・ゲイ・シュトルベルク記者が、国家安全保障・戦略コミュニケーション担当のデニス・マクドナウ大統領補佐官に質問し、米政府は、記者や国民ばかりでなく、上院の不意さえつこうとしていたのかどうか質した。以下がそのやり取りである。

Stolberg: I have a question. On the treaty, it seems as though the announcement that you're calling on the Senate to ratify this treaty has actually caught the Senate off guard a little bit. Harry Reid's folks didn't know about it. And I wondered if you have run that by the Foreign Relations Committee and do you have a commitment from them that they'll bring it up?
シュトルベルク記者:質問があります。CIFTAについてです。大統領は、CIFTAの批准を上院に呼び掛けることを表明したわけですが、この表明は、いささか上院の意表をつくものであったように思えます。ハリー・リード上院多数党院内総務は、このことを知りませんでした。上院外交委員会の場でこれを取り上げる場合、同委員会がCIFTAの批准を承認するという確証があるということなのでしょうか。

McDonough: You know, Sheryl, thanks for the question. There's a tradition at the beginning of each Congress that the President submits a treaty priority list — the Secretary of State and the President. So that's exactly what we did and this is one of the priority treaties that we'd like to see the Senate's advice and consent on. And, you know, we are working very closely with Senator Reid and many others on a range of issues, to include this.
マクドナウ補佐官:ご質問頂き、ありがとうございます。議会開会時に、大統領が優先的に審議すべき条約のリストを提出するというのが伝統となっています。リストを提出するのは大統領と国務長官です。条約リストは確かに提出しており、CIFTAが優先的に審議すべき条約であることについて、上院の勧告と理解を得たいと考えています。また、リード上院議員とは、CIFTAのことも含め、幅広い分野の議題について、緊密に連携を取り合っています。

Stolberg: Can you just say how many treaties are on that list? And do you have an order? And is that what this treaty — where is it in the order of priorities?
シュトルベルク記者:それでは、そのリストの中にどれだけの数の条約が挙げられているのかお教え頂けますでしょうか。そして、CIFTAの優先順位はどうなっているのでしょうか。

McDonough: I can tell you it's among the top treaties, but I'll get you the list so you can have it.
マクドナウ補佐官:CIFTAが優先的に取り上げるべき条約に含まれていることをお教えすることはできますが、リストを持って参りますので、あなたにお渡し致します。

Stolberg: Sounds —
シュトルベルク記者:分かりました。

McDonough: I haven’t seen the final list, so let me just get it to you and you can make that call.
マクドナウ補佐官:今、リストの最終版が見当たりません。最終版をお渡ししますので、お問い合わせ下さい。

In her report on the meeting of the two leaders for the Times, Stolberg discussed the U.S. ban on so-called assault weapons, which expired in 2004. She observed that Obama had made renewing the ban a campaign platform, but during the Mexico City conference he had suggested that reinstituting the ban was politically impossible because of opposition from gun rights enthusiasts. “None of us are under any illusion that reinstating that ban would be easy,” she quoted Obama, adding that he insisted he was “not backing off at all” from his position that renewing the ban made sense.
米国とメキシコの両首脳の会談について、シュトルベルク記者が書いた記事がタイムズ誌に掲載された。シュトルベルク記者は、この記事の中で、2004年に失効した攻撃用の銃器を禁止する法律について論じている。オバマ大統領は、攻撃用銃器の禁止の再開を政策綱領に掲げていたが、メキシコシティでの会談の際、オバマ大統領は、銃を所持する権利を熱心に主張する人々のことを考えると、禁止の再開は政治的に不可能であると述べたのではないかとシュトルベルク記者は考えている。「(攻撃用銃器の)禁止の再開は簡単であるとの幻想を抱く者など、誰もいない」。シュトルベルク記者は、このように語っていたオバマ大統領の発言を引用しながら、禁止を再開することが理に適っていると考える立場から「一歩も退かない」とオバマ大統領は言っていたではないかと付け加えた。

Indicating that senators obviously were cognizant of the political ramifications of even appearing to infringe upon the rights guaranteed by the Second Amendment, Reuters news quoted Senate Majority Leader Harry Reid as stating that the United States had to help reduce violence without violating the right to bear arms, which is enshrined in the Second Amendment. “We must work with Mexico to curtail the violence and drug trafficking on America's southern border, and must protect Americans’ Second Amendment rights,” Reid said in a statement. “I look forward to working with the President to ensure we do both in a responsible way.”
憲法修正第2条が定めている権利の侵害となりかねない政治的悪影響を、上院議員ははっきりと認識していると指摘するのはロイター通信だ。ロイター通信は、米国は憲法修正第2条により認められている銃を所持する権利を侵すことなく、暴力の減少に向け取り組んでいくべきだとのリード上院多数党院内総務の発言を紹介した。リード院内総務は声明の中で、「米国はメキシコと協力し、米国南東部国境で見られる暴力と麻薬取引を抑制するとともに、憲法修正第2条で定められた権利を保護しなければならない」と述べ、「この2つを、責任を持って両立させるという形で、大統領に協力したい」と述べた。

In an interview with Reuters news service, Wayne LaPierre, the National Rifle Association’s executive vice president, stated that “The answer is to enforce the current law. Everything these drug cartels are doing involving firearms is illegal on both sides of the border already.”
全米ライフル協会(NRA)のウェイン・ラピエール副会長は、ロイター通信のインタビューの中で、「答えは現行法の強化にある。米国とメキシコの国境で見られる麻薬カルテルの銃器の取引は、そもそも違法なのだから」と述べていた。

The Arizona Republic correctly observed that the now-expired ban prohibited sales of “semiautomatic weapons with certain combinations of military-style features, such as folding stocks, large magazines and flash suppressors.” It also cited arguments made by opponents of the ban that the so-called assault weapons actually fire smaller ammunition than some other rifles and that it is unconstitutional to ban a gun simply “because of how it looks.”
アリゾナ・リパブリック紙は、失効した攻撃用銃器禁止法が「折りたたみ式の銃床や大きめの弾倉、銃口消焔器など、軍事用としての特徴を備える半自動小銃」の販売を禁じていたと指摘している。同紙はまた、禁止の反対論者による「いわゆる攻撃用銃器が発射する弾薬は実際、他のライフル銃が発射するものと比べると小さい。単に「見かけ」だけを理由に銃器を禁じるのは憲法違反である」との主張を紹介した。

Actually, the cited argument does not go far enough. The Second Amendment, in stating simply that “the right of the people to keep and bear arms shall not be infringed” does not make any exceptions whatsoever. The arms kept by the people at the time the amendment was written were the same as those used by the military of the day. The reason for the amendment was not to enforce the right to hunt or protect one’s home — however important those rights might be — but, rather, to guarantee the people’s ability to exercise a right enshrined in the Declaration of Independence: “That whenever any Form of Government becomes destructive of these Ends, it is the Right of the People to alter or to abolish it, and to institute new Government.”
だが、引用されている主張で十分であるとはいえない。憲法修正第2条は、「市民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」と規定しているだけではあるが、例外を一切許していないのだ。この文言が書かれた当時の米国市民が携帯していた武器は、軍が使用していたものと同じだったのである。憲法修正第2条の文言は、狩猟や家族を守る権利(こうした権利が重要であることは当然だとしても)のために誕生したというわけではなく、独立宣言において謳われた権利の行使を保障するためなのである。独立宣言は次のように謳っている。「いかなる形態であれ政府がこれらの目的にとって破壊的となるときには、それを改めまたは廃止し、新たな政府を設立(し、人民にとってその安全と幸福をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその政府の基礎を据え、その権力を組織)することは、人民の権利である」

Obviously, a civilian population that is unarmed is not in a position to alter or abolish anything.
武装していない市民が、いかなる政府であれ、それを改め、廃止する立場にないことは明白である。

If arms are being illegally exported to Mexico, then it is obvious that the U.S.-Mexican border is far from secure. Both nations need to do their part to secure the border. But it is each nation’s primary responsibility to secure its own border against people or objects crossing its borders in an inward direction.
もし、武器が違法にメキシコに輸出されているのであれば、米国とメキシコ間の国境の安全が脅かされているのは明かである。当然、両国は、国境の安全を確保するため、お互いの役割を果たす必要がある。しかし、両国の第一義的な責任は、国境を越え国内に流入する人や物から、自国の国境の安全を守ることである。

If Mexican drug cartels are arming themselves with weapons brought into the country illegally from the United States, then Mexico needs to devote more resources to stopping the flow. Maybe it should not be so quick to protest when the United States proposes building a more secure fence along the border, which would help both nations.
もし、メキシコの麻薬カルテルが、米国から違法に流入した武器で武装しているというのであれば、メキシコは、武器の不正な流入を止めるために、一層の資源を投入すべきである。米国が両国の国境沿いに安全確保のための壁を建設しようと提案しているのだから、そんなにすぐに抗議すべきではないだろう。

As for the United States, the Constitution says little about the federal government’s role in maintaining our borders — primarily, it is to protect each state in the union against invasion. And since Congress is given the power to "lay and collect duties," some control over imports must be maintained to ensure that duties are paid and that contraband can be seized. A border secure enough to stem the invasion by illegal immigrants and to intercept smugglers would also benefit both nations.
米国の場合、憲法が、国境の安全維持における連邦政府の役割を具体的に規定しているわけではない。強いて言えば、他国による侵略から各州を保護することが、第一義的な役割であろう。また、連邦議会には「税を定め、徴収する」権限があり、関税支払いを確保し、密輸品の押収を実施するためにも、輸入品に対する一定の規制を持続する必要がある。移民の違法な流入を食い止め、密輸入を阻止することで国境の安全が十分に確保されることが、米国・メキシコ両国の利益を守ることになるだろう。

Working within the limits of the Constitution is more efficient (and more protective of our citizens’ rights) than going outside them.
つまり、憲法の制約を踏まえた努力の方が、憲法の制約から離れた取り組みよりも、効率的であるといえよう(そして、米国市民の権利の保護という目的にも適うのである)。

As for the treaty, since none of the other nations that are party to the "Inter-American Convention" share the protections afforded by our Second Amendment, to make our own law subject to the convention can only undermine our right to keep and bear arms.
CIFTAについて言うと、CIFTAの当事国はどこも、憲法修正第2条で規定されている権利の保護を共有しておらず、米国の法律をCIFTAに従わせるようなことは、米国民が武器を所持し、携帯する権利を損なうだけである。

The text of the treaty is worded benignly enough, using such phrases as “REAFFIRMING the principles of sovereignty, nonintervention, and the juridical equality of states.” However, since the principles of firearms ownership embodied in our Second Amendment are unique in the world, any accommodation with nations that do not enjoy similar protections is bound to dilute our own government’s respect for the Second Amendment. Certain language in the treaty indicates that it views the right to keep and bear arms differently than Americans are accustomed to. For example, the treaty attempts to reassure its signatories that it “is not intended to discourage or diminish lawful leisure or recreational activities such as travel or tourism for sport shooting, hunting, and other forms of lawful ownership and use recognized by the States Parties.”
CIFTAの文言は「国家主権と不干渉、国家の法的平等性の原則を再確認する」というもので、十分に寛容な規定である。しかし、憲法修正第2条で定められた武器を所持する権利は、世界の中でも特殊であり、同様の権利を持たない国と歩調を合わせることで、米政府は、憲法修正第2条を尊重する姿勢を弱めることになりかねない。CIFTAの規定を読むと、米国が定める武器を所有する権利とCIFTAが定める武器を所持し、携帯する権利では、考え方が異なっていることが分かる。例えば、CIFTAは署名国に、同条約が「スポーツ射撃や狩猟、その他の目的で旅行や観光をする場合のレジャーや娯楽などの合法的な活動、もしくは当事国が認める武器を使用する権利を妨げ、損なうわけではない」ということを再確認している。

But in the case of the United States, the right to keep and bear arms is not contingent upon our government’s definition of “lawful ownership” — it is a fundamental right. And that right is designed not merely to allow for “leisure or recreational activities” but as the last recourse of the citizenry against a government that becomes totalitarian.
一方で、米国の場合、武器を所持し、携帯する権利は、政府による「合法的な所有」という定義に基づいているわけではない。これは、基本的な権利なのである。さらに、この権利は、単に「レジャーや娯楽」のために認められているわけではない。全体主義と化した政府に市民が抵抗できるよう、最終手段としての武器に訴える権利でもあるのだ。

Also disturbing is the treaty’s references to international law and the United Nations. One place references “strengthening existing international law enforcement support mechanisms such as the International Weapons and Explosives Tracking System (IWETS) of the International Criminal Police Organization (INTERPOL), to prevent, combat, and eradicate the illicit manufacturing of and trafficking in firearms, [etc.]”
CIFTAの国際法や国連に言及した文言もまた、混乱を誘うものである。CIFTAは「武器の違法な製造・取引の阻止、対処、根絶を目指す国際刑事警察機構(INTERPOL)による国際兵器・爆発物追跡システム(IWETS)のような仕組みを支える既存の国際法の実施を強化する」とも謳っている。

And, for some unspecified reason that can only be construed as simple kowtowing to the UN, the treaty provides that copies of it “shall be deposited with the General Secretariat of the Organization of American States, which shall forward an authenticated copy of its text to the Secretariat of the United Nations for registration and publication, in accordance with Article 102 of the United Nations Charter.”
また、理由はよく分からないが、単に国連に媚びへつらっているだけではないかと思われる文言もある。CIFTAは「条約の複写は米州機構事務局に寄託されなければならない。米州機構事務局は国連憲章第102条に従い、登録・公表のため、国連事務局に条約の正本を渡さなければならない」と規定している。

If our borders are secure, we can police the importation of weapons from criminal or terrorist sources all on our own, without becoming entangled in international treaties that may dilute our right to keep and bear arms without infringement.
もし、国境の治安が確保されていれば、米国はすべて自分の手で、犯罪者やテロリストから流れてくる武器の流入を規制することができるのである。この場合、我々の合法的な武器の所持・携帯の権利を弱めることになる国際条約にかかわる必要などないのだ。(了)

以下、AP通信より。

Obama to push for Latin American arms treaty
オバマ米大統領、銃器・弾薬・爆発物などの密造・不正取引を防止するOAS条約の批准に意欲を示す


By BEN FELLER –Apr 17, 09

MEXICO CITY (AP) — Administration officials say President Barack Obama will push for Senate ratification of a Latin American arms trafficking treaty.
メキシコシティ(AP):米政府関係者が語ったところによると、バラク・オバマ米大統領は、銃器・弾薬・爆発物・その他の関連部品の密造・不正取引防止のためのOAS(米州機構)全米条約の批准を上院に呼び掛ける意向であることが分かった。

Obama planned to make the announcement after meeting Thursday with Mexican President Felipe Calderon. Officials discussed the plan on the condition of anonymity so they wouldn't pre-empt Obama's first trip to Mexico as president.
オバマ大統領は、17日の木曜日に予定されているメキシコのフェリペ・カルデロン大統領との会談後に明らかにする予定だという。取材に応じた米政府関係者は、オバマ大統領の初のメキシコ訪問の情報を先取りして伝えているわけではないと念を押し、匿名を条件に語ってくれた。

The regional treaty, adopted by the Organization of American States, was signed by former President Bill Clinton in 1997 but never ratified by the Senate.
米国はクリントン元大統領の当時、1997年に、銃器・弾薬・爆発物の密造・不正取引を防止するためのOAS条約に署名しているが、上院による同条約の批准はまだだ。

Officials say the inter-American arms trafficking treaty would curb guns and ammunition trafficking that threatens regional security. Officials say the move is meant to show the United States is serious about confronting a security threat on its doorstep.
米政府関係者は、同条約が、地域の安全を脅かす銃器や弾薬の不正取引を防止することになるだろうとの考えを示し、同条約に批准する姿勢を示すことで、米国は目の前の安全保障上の脅威への対処に真剣であることを証明する意図があると述べた。

THIS IS A BREAKING NEWS UPDATE. Check back soon for further information. AP's earlier story is below.
(以下、関連の最新記事)

WASHINGTON (AP) — Confronting a security threat on America's doorstep, President Barack Obama launched a swift diplomatic mission to Mexico Thursday to show solidarity with a troubled neighbor — and to prove that the U.S. is serious about halting the deadly flow of drugs and weapons.
ワシントン(AP):米国の目の前の安全保障上の脅威に立ち向かうため、バラク・オバマ米大統領は木曜日、速やかに外交を展開し、メキシコを訪問、問題を抱える近隣諸国と団結していく意思を示すとともに、米国が麻薬や武器の氾濫の防止に真剣であるとの姿勢を見せる意向だ。

During his stop in Mexico City on Thursday, Obama will emphasize cross-border cooperation and probably put a focus on clean energy, but the economic crisis and the bloody drug trade have set the tone.
メキシコシティに訪問することになっているオバマ大統領は、そこで、すでに基本姿勢が定まっている経済危機と麻薬取引のほかには、クリーンエネルギーに焦点を当てた国境横断的な協力の必要性を強調することになるだろう。

Among the other touchy points are disagreement over a lapsed U.S. assault weapons ban, a standoff over cross-border trucking, and immigration.
やっかいなのは、米国の攻撃用銃器規制法が失効したことや、国境を超えた取引・移民問題への対処の行き詰まりなどをめぐり、意見が対立している点だ。

The escalating drug war in Mexico is spilling into the United States, and confronting Obama with a foreign crisis much closer than North Korea or Afghanistan. Mexico is the main hub for cocaine and other drugs entering the U.S.; the United States is the primary source of guns used in Mexico's drug-related killings.
メキシコで過熱している麻薬との戦いは米国にまで飛び火し、北朝鮮やアフガニスタンと並ぶほどの対外危機となり、オバマ大統領の前に立ちはだかっている。メキシコは米国に流入しているコカインなどの麻薬流通の主たる拠点となっている一方で、メキシコでの麻薬絡みの殺人事件で使われる銃器の流通源は米国なのである。

Mexican President Felipe Calderon's aggressive stand against drug cartels has won him the aid of the United States and the prominent political backing of Obama — never as evident as on Thursday, when he left Washington to fly to the Mexican capital and stand with Calderon on his own turf.
メキシコのフェリペ・カルデロン大統領は、麻薬カルテルに果敢に立ち向かうことで、米国からの支援とオバマ大統領からのはっきりとした政治的支持を勝ち取っている。とはいえ、オバマ大統領が木曜日にメキシコの首都に向けて出発し、カルデロン大統領と会うというような、あからさまなものではなかったが。

Interviewed Wednesday by CNN en Espanol, Obama said Calderon is doing a "heroic job" in his battle with the cartels.
オバマ大統領は水曜日、CNNスペイン語放送で、カルデロン大統領は、麻薬カルテルとの戦いにおいて、「英雄のような働き」をしていると述べた。

As for the U.S. role, he said, "We are going to be dealing not only with drug interdiction coming north, but also working on helping to curb the flow of cash and guns going south."
米国の役割について、オバマ大統領は「北からの麻薬の流入を阻止するばかりでなく、南へと向かう金や銃器の流れを食い止めるための取り組みも進めていく意向だ」と語った。

Homeland Security Secretary Janet Napolitano said consultations with Mexico are "not about pointing fingers, it's about solving a problem: What can we do to prevent the flow of guns and cash south that fuel these cartels?"
ジャネット・ナポリターノ米国土安全保障長官は、メキシコとの協議について、「問題を指摘するだけでなく、問題を解決させようとする協議になるはずだ。つまり、メキシコの麻薬カルテルを潤している銃器と金の流れを断ち切るため、米国は何ができるのかということだ」と語った。

Obama's overnight Mexican stop came on the way to the Summit of the Americas in the two-island Caribbean nation of Trinidad and Tobago, where he hopes to set a new tone for relations with Latin America.
オバマ大統領は、トリニダード・トバゴで開催される米州サミットに向かう途中でメキシコに立ち寄る。オバマ大統領は米州サミットで、中南米諸国との関係についての方向性を定めようと考えている。

"We will renew and sustain a broader partnership between the United States and the hemisphere on behalf of our common prosperity and our common security," he wrote in an Op-Ed column printed in a dozen newspapers throughout the region.
「米国は、共通の繁栄と安全のために、周辺諸国との関係を刷新し、維持していくだろう」。オバマ大統領は地方紙に寄稿した論説記事の中で、こう述べていた。

In the past, Obama said, America has been "too easily distracted by other priorities" while leaders throughout the Americas have been "mired in the old debates of the past."
また、オバマ大統領は過去に、南北アメリカのリーダーはこれまで、「昔の古めかしい議論から抜け出せずにいた」一方で、米国は「他の優先事項に、簡単に目移りしてしまう」とも述べていた。

More than 10,000 people have been killed in Mexico in drug-related violence since Calderon's stepped-up effort against the cartels began in 2006. The State Department says contract killings and kidnappings on U.S. soil, carried out by Mexican drug cartels, are on the rise too.
カルデロン大統領が2006年に麻薬カルテルとの戦いに踏み出して以来、メキシコでは1万人以上が、麻薬絡みの暴力で命を落としている。米国務省によると、メキシコの麻薬カルテルによる請負殺人・誘拐が、米国でも増加傾向にあるという。

A U.S. military report just five months ago raised the specter of Mexico collapsing into a failed state with its government under siege by gangs and drug cartels. It named only one other country in such a worst-case scenario: Pakistan. The assertion incensed Mexican officials; Obama's team disavowed it.
ちょうど5カ月前にまとめられた米軍報告書では、メキシコは、ギャングや麻薬カルテルの影響力が増大し、破綻国家となる恐れがあるという最悪の見通しが提示されていた。こうした最悪のシナリオが想定されている国が他にももう一つある。パキスタンだ。このような見方がメキシコの政府関係者を激高させたが、オバマ政権はこの事実を否認している。

Indeed, the Obama administration has gone the other direction, showering attention on Mexico.
結局、オバマ政権は、方針転換し、メキシコに大きな関心を向けるようになった。

Secretary of State Hillary Rodham Clinton said in Mexico City that the U.S. shared responsibility for the drug war. She said America's "insatiable demand" for illegal drugs fueled the trade and that the U.S. had an "inability" to stop weapons from being smuggled south.
ヒラリー・ロッドハム・クリントン米国務長官はメキシコシティで、米国は麻薬との戦いをともに進めていく責務があると述べた。また、ヒラリー国務長官は、違法ドラッグを求める米国の「強欲な欲求」が、麻薬の不正取引を煽るとともに、米国は、南に密輸されている銃器の取り締まりに「無力」だったと指摘した。

Obama has dispatched hundreds of federal agents, along with high-tech surveillance gear and drug-sniffing dogs, to the Southwest to help Mexico fight drug cartels. He sent Congress a war-spending request that made room for $350 million for security along the U.S.-Mexico border. He added three Mexican organizations to a list of suspected international drug kingpins. He dispatched three Cabinet secretaries to Mexico. And he just named a "border czar."
オバマ大統領は、麻薬カルテルとの戦いでメキシコを支援するため、監視機器や麻薬探知犬とともに、数百人の連邦捜査員をアメリカ南西部に派遣した。また、オバマ大統領は、米国とメキシコの国境沿いの安全を確保するための予算として、3500万ドルを国防予算の中に含めるよう、議会に要請した。さらに、オバマ大統領は、3つのメキシコの組織を、国際的な麻薬取引組織の中でも中心的な組織のリストに加えるとともに、3人の閣僚メンバーをメキシコに派遣した。オバマ大統領は、派遣した閣僚メンバーを「国境管理の総元締め」として指名したとしている。

The Justice Department says such Mexican drug trafficking organizations represent the greatest organized crime threat to the United States.
米司法省は、麻薬の不正取引を行うメキシコの組織は、最大の組織犯罪にかかわっており、米国の脅威となっているとの見解を示している。

The White House is vowing more enforcement of gun laws. But it is not pursuing a promise Obama made as a candidate: a ban on assault-style weapons.
米政府は銃器規制法を、さらに厳格に執行することを約束している。しかし、オバマ大統領が大統領選の際、公約に掲げていた「攻撃用銃器の禁止」まで追求することはしないとしている。

That ban on military-style guns became law during the Clinton administration in 1994 but expired under the Bush administration in 2004. When Attorney General Eric Holder raised the idea of reinstituting the ban this year, opposition from Democrats and Republicans emerged quickly.
攻撃用の銃器を禁止する法律は、1994年にクリント政権が成立させたものだが、その後、ブッシュ政権の下、2004年に失効している。エリック・ホルダー司法長官が同禁止の今年中の復活を提案したところ、即座に民主・共和両党が反発した。

Reopening the debate on gun rights is apparently a fight the White House does not want to take on right now.
米政府は、銃を所持する権利をめぐる議論の再燃で、今、論争が激化することを避けたがっている。

"I think that there are other priorities that the president has," Obama spokesman Robert Gibbs said this week.
ロバート・ギブス大統領広報官は今週、「オバマ大統領には、優先的な案件が他にもあると思う」と語った。

Mexican leaders, though, say the ban saved lives.
とはいえ、メキシコの首脳陣は、「禁止」こそが、命を救うことになると述べている。

The swooning economy, blamed largely on failures inside the United States, has taken a huge toll on Mexico. About 80 percent of Mexico's exports — now in decline — go to the United States.
米国の失敗が招いたと激しく非難されている経済の失速は、メキシコにとっても大打撃となっている。現在、減少傾向にあるメキシコの輸出の約80%は、米国向けである。

Obama and Calderon are likely to tout the value of that trade, but a spat between their countries remains unresolved. Mexico has raised tariffs on nearly 90 American products, a retaliation for a U.S. decision to cancel access to Mexican truckers on U.S. highways despite the terms of a free trade agreement.
オバマ、カルデロンの両首脳は、両国の貿易の重要性を強調しようとしているが、米国とメキシコの両国が対立している問題は解決していない。メキシコは米国から輸入する約90品目に対して、関税を引き上げた。FTAによる合意があるにもかかわらず、米国がトラックの相互乗り入れ試験プロジェクトを一方的に中止したことに対する報復である。

On immigration, Obama is expected to make clear he is committed to reforms. The effort is likely to start this year but won't move to the top of his agenda.
不法移民問題について、オバマ大統領は、制度改革を進める意向であることを明かした。制度改革への取り組みは今年中に開始されることになりそうだが、オバマ大統領が掲げる政策の最優先事項に位置付けられるわけではない。

"It's important because of the human costs," Obama said in the CNN en Espanol interview. "It's something that we need to solve."
移民制度改革について、オバマ大統領はCNNスペイン語放送の中で、「人的損失を配慮すると重要である」とし、「米国には解決しなければならないことがある」と述べた。(了)

2009年4月20日月曜日

北朝鮮によるミサイル技術の拡散と日本

北朝鮮のミサイル開発に
日本製の資機材が使われていたという事実については
それを裏付ける証拠がIAEAの査察官などにより、
示されてきましたが
今回は、北朝鮮によるミサイル技術の拡散において
拡散されていた技術に
日本製のものが含まれていたということが判明したことを
報じる記事です。

記事はThe Japan Times。

North 'missile factory' used Japan parts
India took steel, devices from freighter in '99 New Delhi
北朝鮮船からミサイル製造用の日本製資機材が見つかる
インドが精密装置や特殊鋼を押収

http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/nn20090419a1.html

Sunday, April 19, 2009

NEW DELHI (Kyodo) Japanese precision tools and steel were found in missile-making equipment taken from a North Korean freighter detained at an Indian port in June 1999 while en route to Pakistan, a former senior Indian official said Saturday.
1999年6月にインドの港で抑留された北朝鮮の貨物船からミサイル製造用の資機材が押収され、その中から、日本製の精密機器や特殊鋼が見つかっていたことが、インドの元高官の証言で分かった。貨物は、パキスタン向けだったという。

While North Korea is known to have provided missile knowhow to Pakistan in return for nuclear weapons technology, this is the first concrete example of how Japanese equipment has played a part in North Korea's proliferation of missile technology.
北朝鮮は、パキスタンにミサイル技術を提供、その見返りとして核兵器技術を獲得していると見られているが、日本製の資機材が、北朝鮮によるミサイル技術の拡散に一役買っていたことを裏付ける具体的事実が判明したのは初めてのこと。

K. Santhanam, a senior official in India's Defense Research and Development Organization, told Kyodo News that the North Korean cargo contained a device for three-dimensional measuring, a numerically controlled machine tool, maraging steel and other Japanese high-tech products.
「防衛研究開発機構(DRDO)」の代表顧問であるK・サンタナム氏は、共同通信の取材に応じ、北朝鮮の貨物船には、三次元測定器用の装置やNC(数値制御)工作機械をはじめとする日本のハイテク製品やマルエージング鋼などがあったと語った。

Santhanam said he directed the search of the freighter Kuwolsan in his capacity as chief adviser to DRDO, part of the Indian Defense Ministry involved in missile development.
DRDOはインド国防省直轄のミサイル開発部門で、サンタナム氏はそこの代表顧問として、北朝鮮の貨物船「クウォルサン(九月山)号」の調査を指揮したという。

The Kuwolsan, described by some media reports as a "hidden missile factory," was detained during a stop at Kandla in the province of Gujarat.
「隠れたミサイル工場」ともいわれているクウォルサン号は、インド西部のグジャラート州にあるカンドラ港で抑留された。

The Japanese firms named by Santhanam as the purported manufacturers of the high-tech instruments and maraging steel, which is used in rocket and missile frames, have denied exporting any of their products to North Korea.
サンタナム氏に名指しされた、北朝鮮のロケットやミサイル開発に使われていると考えられる製品やハイテク機器を製造した日本企業は、北朝鮮への製品の輸出を否定している。

Indian authorities believe North Korea acquired the Japanese products through China or other countries.
インド当局は、北朝鮮が中国などの第三国を経由して、日本製品を入手していると見ている。

According to Santhanam, the Kuwolsan's captain initially told Indian authorities his ship was delivering "water refining equipment" to Libya.
サンタナム氏によると、クウォルサン号の船長は当初、インド当局に対し、貨物はリビア向けの「水質浄化装置」だと申告していたという。

At India's request, the United States, Russia, South Korea and other members of the Missile Technology Control Regime, an informal association of countries seeking to curb missile proliferation, sent experts to examine the ship's cargo.
ミサイル開発に必要な関連汎用品や技術の拡散を防ぐ「ミサイル技術管理レジーム(MTCR)」の加盟国である米国やロシア、韓国などの国が、インドの要請に応じ、クウォルサン号を調査するため、専門家を派遣した。

By analyzing Korean-language documents and sensitive equipment confiscated from the Kuwolsan, the MTCR experts concluded the ship was carrying missile-assembly equipment and missile parts.
MTCRの専門家は、クウォルサン号から押収された朝鮮語の資料や機微な機器を分析し、クウォルサン号がミサイル製造用の機器や部品を運んでいたと結論付けた。

Engineering diagrams of missiles were also found on the ship.
クウォルサン号からはミサイルの設計図も見つかっている。

The ship's 44 crew members were detained by Indian authorities and later repatriated to North Korea.
クウォルサン号には44人の船員がおり、インド当局に抑留されていたが、後に北朝鮮に送還されている。(了)

2009年4月17日金曜日

北朝鮮のミサイル問題:製造に使われる日本の精密機器

北朝鮮が先日、ミサイルを発射した問題に対し、
国連安保理でどう対処していくのかをめぐる各国の攻防が
繰り広げられていました。

新たな決議を求める日本の立場については、
心情的には理解できても、決議の内容が
これまでの決議に屋上屋を架すものにしかならないと
感じていたので、意味はあまりないと思っていました。

最終的に議長声明という形式になりましたが
トーンダウンしたとはいえ、
北朝鮮が安保理決議に違反したとの認識を示すような
文言が入ったのは大きいでしょう。

さて、北朝鮮が違反したとされる国連安保理決議1718ですが、
この決議1718の重要なポイントは、国連加盟国に対し、
北朝鮮に核兵器やミサイル開発に必要な
貨物・技術が提供されるということがないよう、
輸出管理を求めているという点です。

そして、北朝鮮の核兵器・ミサイル開発には
日本製の資機材、ないし技術が多く使用されていることを
忘れてはならないと思います。

つまり、裏を返せば、日本もまた、国連安保理決議が求める
輸出管理の文言を、十分に履行していないのではないか
とさえ言える状況があるということです。

大量破壊兵器拡散の防止を目指し、
輸出管理措置をさらに強化するための外為法改正が
20年ぶりに行われるようですが
日本の輸出管理における動向も注目されています。

以下の記事は、そうした日本の問題点に触れたものです。

Japanese technology 'helped launch North Korean rocket'
北朝鮮のロケット打ち上げに寄与する日本の技術
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/japan/5113926/Japanese-technology-helped-launch-North-Korean-rocket.html

Japanese technology may have helped North Korea launch what it claims was a satellite delivery vehicle on Sunday, according to defence analysts in Japan and the United States.
日米両国の防衛アナリストによると、「人工衛星の打ち上げ」として発射された北朝鮮のロケットに寄与しているのは、日本の技術であるという。


The revelation will come as an embarrassment to the Japanese government, which has called on the international community to unite and impose severe sanctions on Pyongyang in retaliation for the launch.
北朝鮮のロケット打ち上げに対抗するため、国際社会が団結し、北朝鮮に厳格な制裁を科すよう要請している日本にとっては、耳の痛い話だろう。

Japan, South Korea and the United States believe the launch was a cover for a rocket that can be used to deliver a nuclear warhead.
日本と韓国、そして米国は、北朝鮮が打ち上げたロケットの先端部のカバーには、核弾頭を搭載することも可能であると考えている。

"We have seen several reports that North Korea has used technology that has come directly from Japan, or that it has reverse-engineered other key components, so it would not be any surprise to find parts in the missile that originated in Japan," said Professor Hiroyasu Akutsu, of the National Institute of Defence Studies.
日本の防衛省防衛研究所の阿久津博康教授は「北朝鮮は、日本から直接入手した技術を利用したか、もしくは、(日本の技術の)主要なコンポーネントをリバース・エンジニアリングしていたとの報告がある。北朝鮮のミサイルから、日本製の部品が見つかったとしても、不思議ではない」と語る。

"There are many ways in which Pyongyang can gain access to this technology as it has private companies operating here in Japan, as well as in Taiwan and South Korea, that are constantly looking to acquire advanced engineering know-how," he said Japanese companies also have a history of providing sensitive technology - either wittingly or unwittingly - to anyone willing to pay for it.
また、阿久津教授は「北朝鮮には、日本の技術にアクセスするためのルートが数多く存在する。北朝鮮は、台湾や韓国をはじめ、ここ日本でも民間企業を経営し、先進技術のノウ・ハウを獲得しようとしている」と述べ、「日本の企業は、意図的に、もしくは、非意図的に、お金を払ってくれる取引相手に機微な技術を提供してきたという前例もある」と指摘した。

In 2002, Japan stepped up legal measures to prevent the export of technology that could aid proliferation of nuclear weapons. But since 2003, at least four companies have been investigated on suspicion of selling restricted technology overseas or to front companies for foreign organisations.
日本は2002年に、核兵器の拡散につながり得る技術の輸出を阻止するための法的措置を強化した。にもかかわらず、その翌年である2003年以来、少なくとも4社の日本企業が、海外、もしくは海外のトンネル会社に、規制対象となっていた技術を売却した疑いで捜査された。

Two other companies were the subject of police investigations in 2007 after parts they had manufactured were found by inspectors from the International Atomic Energy Agency at North Korea's Yongbyon nuclear facility in 2006.
この他にも、2007年には、日本企業の2社が警察の捜査を受けている。国際原子力機関(IAEA)の査察官が2006年に、寧辺にある核施設から、この2社が製造した部品を発見したためである。

In June 2007, three employees and the president of Mitutoyo were given suspended prison sentences and the company was fined Y45 million (£300,000) for skirting export controls on equipment that could be used to manufacture centrifuges to enrich uranium for nuclear weapons.
2007年7月には、精密測定機器の総合メーカーであるミツトヨの社長と3人の従業員が実刑判決を受けるとともに、ミツトヨは、核兵器製造に必要なウラン濃縮を行うための遠心分離器の部品となる機器に対する規制を無視した罪で、4500万円の罰金を支払った。

North Korea has already tested a nuclear device and is now attempting to perfect the missile that will deliver it to a target, Japan fears.
北朝鮮はすでに核実験を実施し、今や、核弾頭を搭載し得るミサイルを完成させようとしているのである。標的は、恐れているとおり、日本ということになるだろう。

"These missiles will use standard electronics components that are available over the counter in Japan, although other parts - such as GPS guidance chips - are more precise and more difficult to acquire," said the US analyst.
「GPSによる誘導に必要な集積回路のような部品は、より精密で、入手も困難だが、北朝鮮のミサイルには、日本と取引相手に、標準の電子コンポーネントを入手し、利用されている」と、米国のアナリストは指摘している。(了)

2009年4月12日日曜日

核兵器の廃絶に向けた取り組みを訴えた、オバマ米大統領のプラハでの演説全文

米国の軍縮・軍備管理系のシンクタンク、
アームズ・コントロール・アソシエーションが
核兵器廃絶への取り組みを明言した
オバマ米大統領のプラハ演説の全文を公表していましたので
http://www.armscontrol.org/pressroom/ObamaPragueSpeech
ここでも取り上げてみました。以下、拙訳です。

“Thank you for this wonderful welcome. Thank you to the people of Prague.
盛大に歓迎頂き、ありがとう。プラハの皆さまに感謝申し上げたい。

One of those issues that I will focus on today is fundamental to our nations, and to the peace and security of the world – the future of nuclear weapons in the 21st century.
今日、これからお話ししたいことは、チェコと米国にとって、そして世界の平和と安全にとって、たいへん重要なことです。そう、21世紀において、核兵器の行方は、今後、どうなっていくのかという問題についてです。

The existence of thousands of nuclear weapons is the most dangerous legacy of the Cold War. No nuclear war was fought between the United States and the Soviet Union, but generations lived with the knowledge that their world could be erased in a single flash of light. Cities like Prague that had existed for centuries would have ceased to exist.
何千発もの核兵器の存在は、冷戦の最も危険な遺産であるといえましょう。米ソ間で核戦争が起きることはありませんでしたが、代々、私たちは、たった一つの光とともに、世界が消えてしまうこともあり得ると知りながら、生きてきたのです。プラハのように数世紀もの間、存在し続けてきた都市も、消えてしまいかねないのです。

Today, the Cold War has disappeared but thousands of those weapons have not. In a strange turn of history, the threat of global nuclear war has gone down, but the risk of a nuclear attack has gone up. More nations have acquired these weapons. Testing has continued. Black markets trade in nuclear secrets and materials. The technology to build a bomb has spread. Terrorists are determined to buy, build or steal one. Our efforts to contain these dangers are centered in a global non-proliferation regime, but as more people and nations break the rules, we could reach the point when the center cannot hold.
今日、冷戦は終結したものの、数千発もの核兵器がまだ、残っています。歴史は奇妙な展開を見せています。世界大の核戦争が勃発する危険は少なくなりましたが、核攻撃に遭うという危険は増大しているのです。核兵器を保有する国は、さらに増えました。核実験は続けられ、核機密と核物質が取引される核の闇市場が存在し、核爆弾を製造するための技術が拡散しています。テロリストは、こうした核物質や核兵器をつくるための技術を購入、製造、あるいは盗んでしまおうと躍起になっています。この脅威を阻止するための取り組みが、グローバルな核不拡散体制の中核であるといえますが、不拡散のルールを破る人や国が増えていけば、この取り組みを維持することはできなくなるでしょう。

This matters to all people, everywhere. One nuclear weapon exploded in one city – be it New York or Moscow, Islamabad or Mumbai, Tokyo or Tel Aviv, Paris or Prague – could kill hundreds of thousands of people. And no matter where it happens, there is no end to what the consequences may be – for our global safety, security, society, economy, and ultimately our survival.
以上で述べた脅威は、すべての人と場所、地域にかかわる問題です。と、ある都市で、核爆弾が爆発したとします。ニューヨークかもしれませんし、モスクワかもしれません。イスラマバードかムンバイ、あるいは東京かもしれません。テル・アビブ、もしくはパリ、はたまた、ここプラハかもしれません。核爆弾がひとたび爆発すれば、数十万もの人々が殺害されることになるでしょう。また、核爆発がどこで起きようと、もたらされる損害はとどまることを知らず、グローバルな規模で、私たちの安定、安全、社会、経済、そして、究極的には私たちの生存すらも脅かすことになるでしょう。

Some argue that the spread of these weapons cannot be checked – that we are destined to live in a world where more nations and more people possess the ultimate tools of destruction. This fatalism is a deadly adversary. For if we believe that the spread of nuclear weapons is inevitable, then we are admitting to ourselves that the use of nuclear weapons is inevitable.
「核兵器の拡散は防げない。私たちが住む世界は、ますます多くの国や人が、この究極の破壊兵器を手に入れ、保有してしまう世界なのだ」と主張する者もいます。こうした運命論こそ、不倶戴天の敵であるといえましょう。もし、私たちが核兵器の拡散は不可避であると考えるのであれば、核兵器の使用もまた、不可避であると、私たち自身で認めてしまうことになります。

Just as we stood for freedom in the 20th century, we must stand together for the right of people everywhere to live free from fear in the 21st. And as a nuclear power – as the only nuclear power to have used a nuclear weapon – the United States has a moral responsibility to act. We cannot succeed in this endeavor alone, but we can lead it.
20世紀、私たちは自由を支持してきました。21世紀の今、私たちはともに、世界のすべての人々が、恐怖からの自由を享受できる権利を守っていかなければなりません。米国は核兵器保有国として、また、核兵器を使用したことがある唯一の核兵器保有国として、行動を起こす道義的責任があります。米国一国だけの努力では、目標を達成することはできません。ですが、努力の先頭に立つことはできます。

So today, I state clearly and with conviction America’s commitment to seek the peace and security of a world without nuclear weapons. This goal will not be reached quickly – perhaps not in my lifetime. It will take patience and persistence. But now we, too, must ignore the voices who tell us that the world cannot change.
ですので、今日、私は、核兵器のない世界の平和と安全を模索するため、アメリカが果たすべき責務について、信念を持ってはっきりと申し上げたい。この目標は、すぐには達成できないでしょう。そして、おそらく、私が生きている間に、達成することはできないかもしれません。また、忍耐と粘り強さがなければいけません。けれども、私たちは、世界は変えられないとの声に耳を貸すわけにはいきません。

First, the United States will take concrete steps toward a world without nuclear weapons.
まず、第一に、米国は、核兵器のない世界の実現に向けて、確実な一歩を踏み出します。

To put an end to Cold War thinking, we will reduce the role of nuclear weapons in our national security strategy and urge others to do the same. Make no mistake: as long as these weapons exist, we will maintain a safe, secure and effective arsenal to deter any adversary, and guarantee that defense to our allies – including the Czech Republic. But we will begin the work of reducing our arsenal.
冷戦期の考え方に終止符を打つため、米国は、国家の安全保障上の戦略における核兵器の役割を低下させていくとともに、他国にも同調してもらえるよう要請していきます。当然、核兵器が存在している限り、米国は敵対国を抑止するために、安全、かつ、確実で、効果的な核戦力を保有し続けなければなりませんし、ここ、チェコ共和国を含む同盟国の安全を保障していかなければならないことは確かです。とはいえ、米国は、核兵器の削減に取り組み始めていこうとしているのです。

To reduce our warheads and stockpiles, we will negotiate a new strategic arms reduction treaty with Russia this year. President Medvedev and I began this process in London, and will seek a new agreement by the end of this year that is legally binding, and sufficiently bold. This will set the stage for further cuts, and we will seek to include all nuclear weapons states in this endeavor.
保有している核弾頭と核兵器の備蓄量を減らしていくため、米国は今年から、ロシアと、従来の条約に替わる新しい戦略核兵器削減条約の成立に向けた交渉を行うことになっています。ロシアのメドべージェフ大統領と私は、(G20の会議が開催された)ロンドンで、このプロセスを開始しました。今年の末までに、法的拘束力を持ち、かつ、十分に大胆であると感じられる合意を達成できるようにしたいと考えています。これにより核兵器の更なる削減に向けた舞台を整え、やがては、すべての核兵器保有国も、この取り組みに参加してもらえるようにしていきます。

To achieve a global ban on nuclear testing, my Administration will immediately and aggressively pursue U.S. ratification of the Comprehensive Test Ban Treaty. After more than five decades of talks, it is time for the testing of nuclear weapons to finally be banned.
また、核実験のグローバルな禁止を達成するため、米政権は、迅速に、かつ、積極的に、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准に向けた努力を始めていきます。核実験の禁止について話し合われるようになってから、もう半世紀以上が過ぎようとしています。今こそ、いよいよ核実験が禁止される時なのです。

And to cut off the building blocks needed for a bomb, the United States will seek a new treaty that verifiably ends the production of fissile materials intended for use in state nuclear weapons. If we are serious about stopping the spread of these weapons, then we should put an end to the dedicated production of weapons grade materials that create them.
さらに、核爆弾の製造に必要な物資を削減していくため、米国は、核兵器製造のために、堂々と使用される核分裂性物質の生産を、検証可能な形で禁止する新たな条約の成立を求めていきます。もし、米国が核兵器の拡散阻止に真剣であるならば、兵器用核分裂性物質の生産を禁止することに取り組んでいかなければなりません。

Second, together, we will strengthen the nuclear Non-Proliferation Treaty as a basis for cooperation.
第二に、核不拡散のための協力の基礎である核拡散防止条約(NPT)の強化を、ともに進めていこうではありませんか。

The basic bargain is sound: countries with nuclear weapons will move toward disarmament, countries without nuclear weapons will not acquire them; and all countries can access peaceful nuclear energy. To strengthen the Treaty, we should embrace several principles. We need more resources and authority to strengthen international inspections. We need real and immediate consequences for countries caught breaking the rules or trying to leave the Treaty without cause.
NPTで定められた約束事は妥当なものです。核兵器保有国は、核軍縮に向けて努力し、核兵器を保有していない国は、核兵器を入手するようなことをしなければ、結果的に、すべての国が平和的な核エネルギーを獲得することができるということなのですから。NPTを強化していくために、私たちは、NPTが示している各原則を尊重していかなければなりません。私たちは、国際査察を強化するための資源と権威が、さらに必要であると考えています。また、私たちは、理由もなく、NPTの規定に背いて、もしくは、NPTから脱退しようとして訴えられた国が、即座に、かつ、実際に処罰されることを求めています。

And we should build a new framework for civil nuclear cooperation, including an international fuel bank, so that countries can access peaceful power without increasing the risks of proliferation. That must be the right of every nation that renounces nuclear weapons, especially developing countries embarking on peaceful programs. No approach will succeed if it is based on the denial of rights to nations that play by the rules. We must harness the power of nuclear energy on behalf of our efforts to combat climate change, and to advance opportunity for all people.
さらに、私たちは、拡散の危険を増大させずに、平和的なエネルギーを入手することができる国際燃料銀行に代表されるような、民生用の核開発協力のための新たな枠組みを確立すべきです。核エネルギーの平和的利用は、核兵器を放棄したすべての国の権利です。特に、核エネルギーの平和利用に取り組む発展途上国に、この権利が保障されなければなりません。もしルールを遵守している国の権利が拒絶されるのであれば、どんなアプローチもうまくいかないでしょう。私たちは、核エネルギーの力を、気候変動に対する取り組みの一環として、また、すべての人々が発展する機会として、利用していかなければなりません。

We go forward with no illusions. Some will break the rules, but that is why we need a structure in place that ensures that when any nation does, they will face consequences. This morning, we were reminded again why we need a new and more rigorous approach to address this threat. North Korea broke the rules once more by testing a rocket that could be used for a long range missile.
私たちは、明鏡止水の心境で前進していくことでしょう。誰かがルールを破ることはあるでしょう。しかし、だからこそ、私たちは、ルールを破ったものが処罰されることになる体制を築く必要があるといえるのです。今朝、なぜ、私たちが核兵器拡散の脅威に対抗するための、より強力な、新しいアプローチを必要としているのかについて、再認識させられる出来事がありました。北朝鮮がまた、ルールをやぶり、長距離ミサイル開発に利用可能なロケットの打ち上げ実験を実行したのです。

This provocation underscores the need for action – not just this afternoon at the UN Security Council, but in our determination to prevent the spread of these weapons. Rules must be binding. Violations must be punished. Words must mean something. The world must stand together to prevent the spread of these weapons. Now is the time for a strong international response. North Korea must know that the path to security and respect will never come through threats and illegal weapons. And all nations must come together to build a stronger, global regime.
この北朝鮮の挑発的行為は、行動の必要性を実感させるものです。午後から開かれる国連安全保障理事会による行動だけではありません。核兵器の拡散を阻止していこうとする、私たちの決意による行動も、同じく必要なのです。規則には拘束力があり、違反すれば罰せられなければならない。ルールの文言には、重要な意味がなければならないのです。世界は、核兵器の拡散を阻止するため、団結して、立ち上がらなければなりません。さあ、今こそ、国際社会が、確固たる行動を起こす時です。北朝鮮は、威嚇や違法な兵器を持ってしても、安全も尊敬の念も得られないことを知るべきでしょう。すべての国が団結し、より強力な、世界規模の体制を確立していかなければなりません。

Iran has yet to build a nuclear weapon. And my Administration will seek engagement with Iran based upon mutual interests and mutual respect, and we will present a clear choice. We want Iran to take its rightful place in the community of nations, politically and economically. We will support Iran’s right to peaceful nuclear energy with rigorous inspections. That is a path that the Islamic Republic can take. Or the government can choose increased isolation, international pressure, and a potential nuclear arms race in the region that will increase insecurity for all.
イランはまだ、核兵器を製造していません。米政権は、相互の利益と相互の敬意を基礎に、選択肢を明確に示しつつ、イランとかかわっていこうとしています。米国は、イランが、政治的にも、そして、経済的にも、国際社会において、適切な地位を占めることが望ましいと考えています。米国は、厳格な査察の下、イランが平和的に核エネルギーを用いることを支持するでしょう。これが、イラン・イスラム共和国に与えられた選択肢です。さもなければ、イラン政府は、孤立を深め、国際社会の圧力が増大するという道を選ぶことになります。そして、この地域の潜在的な核軍備競争が、世界の不安定を加速させるということになるのです。

Let me be clear: Iran’s nuclear and ballistic missile activity poses a real threat, not just to the United States, but to Iran’s neighbors and our allies. The Czech Republic and Poland have been courageous in agreeing to host a defense against these missiles. As long as the threat from Iran persists, we intend to go forward with a missile defense system that is cost-effective and proven. If the Iranian threat is eliminated, we will have a stronger basis for security, and the driving force for missile defense construction in Europe at this time will be removed.
はっきり言いましょう。イランの核開発、ないしミサイル開発活動は、米国にとってだけでなく、イランの近隣諸国と、私たちの同盟国の真の脅威となっているのです。チェコとポーランドは、イランのミサイルの脅威に対抗するための防衛拠点となることに合意するという、勇気ある決断をしました。イランが脅威であり続ける限り、米国は、費用対効果の優れた、信頼性のあるミサイル防衛システム開発を進めていくことになるでしょう。もし、イランの脅威が消えるのであれば、私たちは安全を確保できる確固たる環境が整ったと見なし、この時は、欧州に配備したミサイル防衛を撤去することになるでしょう。

Finally, we must ensure that terrorists never acquire a nuclear weapon.
最後に、私たちは、テロリストが核兵器を獲得することがないということを保証していかなければなりません。

This is the most immediate and extreme threat to global security. One terrorist with a nuclear weapon could unleash massive destruction. Al Qaeda has said that it seeks a bomb. And we know that there is unsecured nuclear material across the globe. To protect our people, we must act with a sense of purpose without delay.
テロリストが核兵器を入手することこそ、世界の安全にとっての、緊急で、かつ、最大の脅威です。核兵器を持ったテロリストが爆発を起こせば、想像を超える破壊行為となるでしょう。アルカイダは核爆弾の入手を試みていると、明言していました。そして、私たちは、管理不十分な状態で、核物質が世界中にあふれているということを知っています。人類を守るため、私たちは一刻の猶予も許さず、行動に移すべきです。

Today, I am announcing a new international effort to secure all vulnerable nuclear material around the world within four years. We will set new standards, expand our cooperation with Russia, and pursue new partnerships to lock down these sensitive materials.
今日、私は、4年以内に、世界中にある脆弱な管理の下に置かれている核物質の安全を保障する、新しい国際的な取り組みについて、ここで表明します。米国は、核兵器開発に必要な機微な物資を管理するため、新たな基準を創設するとともに、ロシアとの協力を拡大し、新しいパートナーシップの在り方を追求していきます。

We must also build on our efforts to break up black markets, detect and intercept materials in transit, and use financial tools to disrupt this dangerous trade. Because this threat will be lasting, we should come together to turn efforts such as the Proliferation Security Initiative and the Global Initiative to Combat Nuclear Terrorism into durable international institutions. And we should start by having a Global Summit on Nuclear Security that the United States will host within the next year.
また、私たちは、核の闇市場を解体するための取り組みを始めなければなりません。運送中の物資を発見、阻止するとともに、この危険な取引をやめさせるための財政的な手段を活用していくのです。核の闇市場による脅威が続くであろうからこそ、私たちは、「拡散阻止のための安全保障イニシアチブ(PSI)」や「核テロリズムに対抗するためのグローバルなイニシアチブ」などを、常設的な国際制度へと変えていくための努力を、協力して進めていくべきなのです。そして、米国が主催国となり、来年中に開催する「核の安全保障に関するグローバル・サミット」を契機に、この努力をスタートさせていくべきです。

I know that there are some who will question whether we can act on such a broad agenda. There are those who doubt whether true international cooperation is possible, given the inevitable differences among nations. And there are those who hear talk of a world without nuclear weapons and doubt whether it is worth setting a goal that seems impossible to achieve.
中には、このような大掛かりな問題に対して、行動などできるのだろうかと、疑問を抱く人もいることでしょう。そして、国家間で意見の不一致が見られるのは確実なのに、真の国際協力など可能なのだろうかと懸念する人もいるでしょう。また、核兵器のない世界などという達成不可能に思える目標を掲げることに、価値があるのかどうか疑う人もいると思います。

But make no mistake: we know where that road leads. When nations and peoples allow themselves to be defined by their differences, the gulf between them widens. When we fail to pursue peace, then it stays forever beyond our grasp. To denounce or shrug off a call for cooperation is an easy and cowardly thing. That is how wars begin. That is where human progress ends.
しかし、私たちは間違いなく、道はどこにつながっているのかを知っています。国々が、そして人々が、違いで規定されてしまうというのであれば、国々と人々の間の溝は深まるばかりでしょう。また、私たちが、平和を志向することができないというのであれば、私たちを隔てる溝は、想像を絶するほどの深さとなるでしょう。協調への呼び掛けを軽視し、突っぱねることは簡単ですし、臆病なことでもあります。さらに言えば、これこそが戦争が始まる道につながるのであり、人類が進歩をやめるということさえ意味するのです。

There is violence and injustice in our world that must be confronted. We must confront it not by splitting apart, but by standing together as free nations, as free people. I know that a call to arms can stir the souls of men and women more than a call to lay them down. But that is why the voices for peace and progress must be raised together.
暴力と不正は、世界中に蔓延し、立ちはだかっているに違いありません。暴力と不正に対して、私たちは、それぞれが分断してしまうのではなく、自由な国家として、また、自由な人民として、団結して立ち向かうべきなのです。武器に訴えようとする呼び掛けは、それを置くよう求める呼び掛けよりも、簡単に人々の魂を掻き立てることができるでしょう。だからこそ、平和と進歩を求める声を、ともどもに上げていかなければなりません。

Those are the voices that still echo through the streets of Prague. Those are the ghosts of 1968. Those were the joyful sounds of the Velvet Revolution. Those were the Czechs who helped bring down a nuclear-armed empire without firing a shot.
この平和と進歩を求める声は、今もプラハにこだまし続けています。この声は、1968年以来、ずっと聞こえ続けている声であり、ビロード革命(「静かな革命」)の歓喜に満ちた声です。チェコこそ、銃弾を一発も撃つことなく、核で武装した帝国を崩壊させる一助となった国なのです。

Human destiny will be what we make of it. Here, in Prague, let us honor our past by reaching for a better future. Let us bridge our divisions, build upon our hopes, and accept our responsibility to leave this world more prosperous and more peaceful than we found it. Thank you.”
人類の運命は、私たちが何を成したかで決まります。プラハの皆さん!より良い未来にたどり着くことで、私たちの過去に敬意を示していこうではありませんか。私たちを分断する溝に橋を架け、希望を打ち立て、私たちが知っている以上の繁栄と平和を、この世界にもたらしていく責任を果たしていこうではありませんか。傾聴頂き、ありがとうございました。(了)

以上のオバマ演説に対しては、冷淡な反応も見られ
例えば、以下の毎日新聞の記事は、そのことについて触れています。

<米大統領核廃絶演説>保有国の反応冷淡 露では「不快」

4月8日20時49分配信 毎日新聞

 核廃絶を目指す包括戦略を打ち出した5日のプラハでのオバマ演説に対し、他の核兵器保有国から冷淡な反応が出ている。核兵器の堅持方針をとる中露仏では演説への関心は低く、ロシアでは「不快」との声さえある。一方、非保有国からは支持の声も聞かれ、国際世論は割れている。
 ロシアは公式な反応を示していない。しかし軍事評論家のパーベル・フェリゲンガウエル氏は「プロパガンダ的な演説だ」と指摘。さらに「通常兵器の効率化が進む米国は核兵器への依存度を減らすことができるかもしれないが、通常兵器の近代化が遅れるロシアにとっては軍事大国の地位を維持するためにも核兵器の放棄は受け入れられない。一言で言えば不快」と分析する。
 また米カナダ研究所のゾロタリョフ副所長は6日付ロシア紙との会見で「米国は同時にミサイル防衛(MD)整備を進めることで核廃絶が可能だが、ロシアは米国のMD能力が制限されない限り、核弾頭数を1500発以下に減らすことはできない」と指摘した。
 ロシアは03年の軍事ドクトリンで核兵器使用の可能性を維持する姿勢を打ち出した。現在新ドクトリンを策定中だが、核戦力を放棄する可能性はない。
 中国の主要メディアも冷ややかだ。中国共産党機関紙・人民日報が発行する時事情報紙「環球時報」は7日、「激情演説『これぞ空想』と評論家」との見出しで演説を報じた。記事はまた「核廃絶を求める声が多い日本でもオバマ氏の提案は『夢物語』と受け止められている」と皮肉った。
 フランスは「より安全な世界を築く共通の目標がある」(外務省報道官)と表面上は歓迎の意向を示す。だが、独自に核を開発した仏は「核抑止力に関する政策は仏の主権の範囲」(サルコジ大統領)とし、米国の意向に容易には従えない。
 インド政府高官は個人的見解と断ったうえで「通常兵器や大量破壊兵器に国家間の格差がある限り、核兵器だけを対象にした軍縮は、安全保障上受け入れられない」とした。 パキスタン政府幹部はオバマ氏が強化するという核拡散防止条約(NPT)について「インドが加盟に応じれば、パキスタンも応じる」と語った。 その一方、非核国のドイツ政府の副報道官は「力強く支持する」と述べた。シュタインマイヤー外相は、米国の核兵器をドイツ領土から撤去するよう米国側と交渉する意向を明らかにした。【モスクワ大木俊治、パリ福原直樹、北京・浦松丈二、ニューデリー栗田慎一】

前に、「核兵器ゼロ」への道は、最終的には、
米国の通常戦力の優位を確立するということにつながり
通常戦力に格差がある状況に不満を感じる国を説得できるかどうか
疑問であると書いたことがありますが
ロシアの軍事評論家が「通常兵器の効率化が進む米国は核兵器の依存度を
減らすことができるかもしれないが…」と述べ、不快感を示した
というのは、当然の反応で、
「核兵器ゼロの追求」=「米国の通常兵器カルテル」という印象を
持たれぬよう、オバマ米大統領がどう、各国を説得していくのか?
気になるところです。