2009年7月5日日曜日

オバマ政権が核兵器用の大陸間弾道ミサイル発射実験を実施

オバマ政権となって初の核兵器用大陸間弾道ミサイル(ICBM)
の発射実験が行われたようです。

発射実験が行われたのは「ミニットマン」という
米国が保有する唯一のICBMのIII型。
ミニットマンのIII型ではMIRV
(Multiple Independently-targetable Reentry Vehicle
=複数個別誘導再突入体)となっているのが特徴。
MIRVとは、一つの弾道ミサイルに複数の核弾頭が
搭載できるようになっているもので、
搭載された複数の核弾道がそれぞれ、
違う目標を攻撃できます。
核ミサイルの配備数を増やさずとも、
一発の核ミサイルの攻撃力だけ増やせるというものです。

射程は最大で1万キロメートルあるので
「ミニットマン3」の発射実験は北朝鮮を警戒するものでは?
とも考えられているようです。
確かに、日本などを含む北東アジアの同盟国の
拡大抑止を核のトライアド(陸・海・空配備)の中の
ICBM(=陸配備)により実現するという意味では、
北東アジアの核危機を想定した実験ともいえるでしょうが、
この実験は同時に、中国を刺激しかねない。

5月の初頭に発表されたオバマ政権のNPR(核態勢見直し)
の内容に影響を与えるであろうといわれている
戦略態勢委員会の報告書でも指摘されていることですが、
米国は、中国と軍事衝突する可能性は低いという認識であるため、
そうした安全保障環境を崩すようなことは、
避けたいところでしょう。

ですので、今回の実験は、表向きは
単純に、ミニットマン3のLife Extension(寿命延長)の
ためのものとするでしょうね。
米国は、ミニットマン3を、
少なくとも2020年まで運用する計画です。

以下は、ミニットマン3の発射実験について報じた
AP通信の記事です。

U.S. Air Force Test Fires Missile From California Base
米空軍、カリフォルニア州の空軍基地からICBMの発射実験を実施


Monday, June 29, 2009
Associated Press

VANDENBERG AIR FORCE BASE, California — The Air Force successfully launched an unarmed Minuteman 3 intercontinental ballistic missile Monday from the California coast to an area in the Pacific Ocean some 4,200 miles away.
カリフォルニア州ヴァンデンバーグ空軍基地:米空軍は6月29日、核兵器用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「ミニットマン3」の発射実験に成功した。発射実験に使われたミサイルには核弾頭は搭載されていない。カリフォルニア沿岸から発射されたミサイルは、約4200マイル(6700キロ)離れた太平洋上の目標に着弾した。

The ICBM was launched from Vandenberg Air Force Base near Santa Barbara at 3:01 a.m. and carried three unarmed re-entry vehicles to their targets near the Kwajalein Atoll in the Marshall Islands, said Lt. Raymond Geoffroy.
米空軍のレイモンド・ジョフロア中佐によると、ICBMは午前3時1分、カリフォルニア州サンタバーバラの近くにあるヴァンデルバーグ空軍基地から発射されたという。再突入体を3つ搭載したICBMは、マーシャル諸島のクワゼリン島付近にある目標に着弾した。

The missile, configured with a National Nuclear Security Administration Test Assembly, was launched under the direction of the 576th Flight Test Squadron, whose members installed tracking and command destruct systems on it to collect data and meet safety requirements.
ミサイルは国家核安全保障局の実験協議会により設定され、データ収集や安全性要求を満たすことを目的に、追跡システムや指令破壊装置を設置した要員で構成される第576飛行試験隊の指揮の下、発射された。

"It's really something when you see a truly outstanding team come together," Col. David Buck, 30th Space Wing commander, said in a written statement. "I couldn't think of a better team to demonstrate the awesome capability of our ICBM fleet."
第30宇宙航空団司令官のデービッド・バック大佐は声明書の中で、「真に優れたチームが協力しているのを見られたのは、本当に素晴らしいことだ」と述べ、「ICBMの驚くべき飛行能力を実証できたチームは、他にいないだろう」と強調した。

On clear mornings the missiles in such tests can be seen as far away as Los Angeles 140 miles away, but a foggy coast Monday made the missile difficult to see even in the immediate area, Geoffroy said.
一方、ジョフロア中佐は、晴れた朝にミサイル発射実験を行った場合、140マイル(224キロ)離れたロサンジェルスほどの距離を飛行している場合でも目視可能だが、月曜は沿岸に霧が発生しており、沿岸付近でさえミサイルの飛行を確認するのが難しかったと語る。

The Air Force says the launch was an operational test to check the weapon system's reliability and accuracy, and the data will be used by United States Strategic Command planners and Department of Energy laboratories.
米空軍は今回のICBM発射実験について、核兵器システムの信頼性と確実性の確認が目的だったと説明した。今回の実験で集められたデータは、米戦略軍と米エネルギー省の研究所で活用されることになる。

"These are dangerous times we're living in right now," Lt. Col. Lesa K. Toler, commander of the 576th, said in a statement. "It's extremely important our combatant commander has the capabilities he needs to perform the mission of fighting and winning our nation's wars."
第576飛行試験隊の司令官であるレサ・K・トーラー中佐は声明の中で、「我々は今、物騒な時代を生きている」と述べ、「統合軍司令官は戦争に戦い、勝つための作戦を実施する際に、必要な能力を備えておくことが極めて重要だ」と指摘している。(了)

ところで、読売新聞が最近、以下のように報じていました。

「核の傘」日米協議へ、月内にも初会合

7月8日3時8分配信 読売新聞

 【ワシントン=飯塚恵子】日米両政府は7日、米国の「核の傘」を巡る両国の協議の場を初めて正式に設け、月内にも初会合を開く方向で検討を始めた。複数の日米関係筋が明らかにした。
 
 外務、防衛両省と米国務省、国防総省の局次長・審議官級の枠組みとする方向で、協議では、有事の際の核兵器の具体的な運用に関して日本側が説明を受け、オバマ大統領が目指す大幅な核軍縮と核抑止の整合性などを話し合う。

 日本に対する「核の傘」は、日米安全保障条約に基づき、米国が保有する核兵器によって日本に対する第三国からの核攻撃を抑止する仕組みだ。米国は、同様の仕組みを持つ北大西洋条約機構(NATO)諸国とは、有事の際の核兵器の運用や手順などの具体的な情報を共有している。 これに対し、唯一の被爆国である日本では、国民に核兵器への抵抗感が強く、運用について協議すれば、野党などから強い反発が出る状況だった。また、米側には日本の機密漏洩(ろうえい)への懸念も根強く、日米間ではほとんど議題に上らなかった。
 
 しかし、北朝鮮が5月に2回目の核実験を行い、中国も核戦力の近代化を進めるなど、東アジアの安全保障環境は不安定さを増している。米韓両国は6月、米国による「核の傘」の韓国への提供を明記する首脳合意文書を交わした。日本政府でも「核の傘」の有用性を再確認し、米側から運用の具体的説明を受けるべきだとの声が高まっていた。 一方、米側では、オバマ大統領が4月、究極の目標として「核兵器のない世界」を目指す考えを表明した。今月6日のロシアとの協議では、12月に失効する第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新たな取り組みとして、核弾頭配備数を双方が最低レベルで1500個まで大幅削減することで合意した。
 
 新方針は、オバマ政権が12月にまとめる、米史上3回目の「核戦力体制見直し(NPR)」に反映される予定だ。日本としてはこの時期までに、有事に備えた「日米共同作戦計画」に核兵器使用がどう組み込まれているかなど運用について説明を受けたうえで、日本側の要望を伝える考えだ。NPRの全容は非公開で、協議内容も基本的には公表されない見通しだ。
最終更新:7月8日3時8分

「拡大抑止をめぐり、米国は日本と話し合うべきだ」とは、
戦略態勢委員会の報告書でもいわれていたことですが、
上の読売新聞の報道と、オバマ政権が実施した
ミニットマン3の発射実験は、無関係ではないのでしょう。
今後、核兵器の削減が進んだ後も、
原子力潜水艦を寄港させるかどうかという厄介な話以前に、
ICBMでも日本の拡大抑止は可能である
ということを、ミニットマン3の発射実験の成果を根拠に
米国側から説明される…ということになるのかもしれません。