2008年4月18日金曜日

武器貿易条約形成に向けた政府専門家会議が始まる

おそらくこのブログを読んでいる人は10人もいないだろうが
数少ない貴重な愛読者の方から、とある質問を頂戴する。

質問はイラクとセルビアの武器取引の記事に関連したもの。
セルビアは自前で武器を製造しているの?とのことでした。

確かに、各国の防衛産業事情がどうなっているのか
できる限り把握しておくと問題の背景がよく分かる。
おいおい調べてみようと思う。

セルビアについては、国営企業として武器の輸出入や
防衛産業サービスを提供するYugoimport SDPRがまずある。
主に小型武器製造を行っているZastava Armsも有名なようだ。

イラクがセルビアと武器取引を行う背景として
NYTの記事でも指摘されていたが
欧米諸国の武器輸出入に伴う規制が
かなり厳しくなっているということが考えられる。

イラク軍、ないし治安部隊の装備面での欠乏状態は
今も続いており、神出鬼没な武装闘争集団を圧倒できない。
なので、装備品をできるだけ素早く、量もたくさんそろえたいところだが
米国相手だと、ルールは厳しいわ、装備は高性能だが高すぎるわで
そう簡単には武器調達できない。

なので武器取引をめぐるルールの弛緩地域を探った結果
セルビアが浮上したという側面があるのではないかと思う。

イラクはそもそも、フセイン政権時代から
大量破壊兵器、通常兵器の開発に必要な物資を調達するため
数十ページもの各国の輸出規制品リストを常に政府高官が持ち歩き
規制の縛りが弱い輸入ルートを探り当てていた国だ。

セルビア政府は今回のイラクとの武器取引を否定しているようだが
(また記事の邦訳を後日載せます)
武器取引を規制するルールが国・地域ごとに異なるという点は
武器の不正な流出入を食い止める上での障害であることは間違いない。

そんな不均一なルールを統一化していく試みが
武器貿易条約の形成に向けた取り組み。
2月から国連主催の専門家会議が始まりました。

軍縮・軍備管理を専門とした米国のシンクタンク(http://www.armscontrol.org/
が発行しているアームズ・コントロール・トゥデイ誌に掲載された記事より。

Arms Control Today
March 2008

U.S. Joins Study of Arms Trade Treaty
米国が武器貿易条約の検討会議に参加


Jeff Abramson

All 28 countries invited to do so, including the United States, sent representatives to a UN-sponsored experts meeting in February to explore a global arms trade treaty (ATT). The United States originally voted against starting the effort (see ACT, December 2006), prompting many to believe it would not participate in the process.
不正な武器取引の包括的な規制を目指した武器貿易条約について検討する国連主催の専門家会議が2月に開かれた。会議に招聘された米国を含む28カ国のすべてが代表を派遣している。米国は当初から武器貿易条約の形成に向けた取り組みに反対していたため(2006年12月のアームズ・コントロール・トゥデイ誌参照)、多くの人が米国は武器貿易条約の交渉過程に参加しないだろうと感じていた。

The Feb. 11-15 governmental group of experts meeting is the first of three such meetings slated to take place this year. The experts are charged with examining the “feasibility, scope and draft parameters for a comprehensive, legally binding instrument for the import, export and transfer of conventional arms.” The expert meetings are closed to the public and are not intended to be negotiations but rather to produce a set of recommendations that could lead to a treaty.
年内に3回の開催が予定されているこの政府専門家会議の第1回目の会合が、2月11-15日までの日程で開かれた。会議に参加した専門家は「通常兵器の輸出入と移転を包括的に規制する法的拘束力のある文書の実効性と適用、規定の範囲」を検討することになっている。会議は非公開である上に、交渉の場としての意味合いもない。むしろ、条約形成に向けた勧告をまとめる場である。

Many governments and civil society groups that have pushed for the UN effort believe that it could result in a treaty. In 2006, 153 countries voted to start the process. Last year, nearly 100 countries submitted their views on a possible legal instrument.
武器貿易条約の形成に向けた努力を国連に促した国と市民グループは、最終的に条約が成立すると信じている。2006年には、153カ国の賛成で、武器貿易条約の形成に向けた交渉の開始を求める国連総会決議が採択された。昨年は100カ国近くが、武器貿易条約に規定される可能な法文書についての見解を提出している。

British Prime Minister Gordon Brown, whose country is seen as a leader of the ATT process, said in a Jan. 21 speech in India that “[b]ecause the threat and proliferation of weapons of mass destruction is now compounded by the continuing proliferation of conventional weapons, and we know that one person is killed every minute from small arms, Britain will also work internationally to achieve a global arms trade treaty.”
武器貿易条約交渉の牽引役を担っている英国のゴードン・ブラウン首相は1月21日、インドで演説し、「大量破壊兵器の拡散による脅威は今や、通常兵器の拡散と相まって、度合いを強めている。小型武器によって、1分ごとに人が殺されていることは周知の事実だ。英国は、グローバルな枠組みとしての武器貿易条約の成立に向けて、国際的に働き掛けていく」と述べた。

In 2006, the United States voted against beginning the treaty process, contending that that the effort would be time-consuming and that any eventual treaty would contain standards weaker than existing U.S. rules. Nonetheless, U.S. nongovernmental groups urged the Bush administration to participate in part because the United States is the largest arms supplier in the world. The U.S. decision to attend came at the last minute, with Ambassador Don Mahley arriving to represent the United States at the meeting on its second day.
米国は、武器貿易条約の交渉を開始するよう求めた2006年の国連総会決議に反対票を投じた。条約が最終的にどうあれ、武器取引をめぐる米国の既存のルールよりも脆弱な基準となることが想定されるため、条約交渉は時間の無駄であるというのが理由である。一方で、米国の非政府組織はブッシュ政権に対し、世界最大の武器供給国である米国は、部分的にでも交渉に参加すべきであると説得した。米国は土壇場で交渉への参加を決め、専門家会議の2日目から、ドナルド・マーレイ軍縮担当大使を出席させた。

Participants in the meeting said that a number of countries expressed skepticism about the ATT concept, including China, Cuba, India, Pakistan, Russia, and the United States. Given that whatever recommendations emerge will need to be agreed to by consensus, they speculate that a final report would likely include a list of pros and cons on the treaty concept.
会議の参加者によると、中国やキューバ、インド、パキスタン、ロシア、米国などは、武器貿易条約の構想に対して懐疑的な見解を表明していたという。どのような内容の勧告が提案されたとしても、コンセンサスによる合意が必要であることを考えると、会議の最終報告は、条約の構想をめぐる賛否双方の意見を羅列したようなものになるのではないかと推測されている。

The experts group is chaired by Ambassador Roberto García Moritán of Argentina. In 2006, Moritán chaired a similar experts group on the UN Register of Conventional Arms, which recommended improvements to the reporting mechanism, including a standardized form for small arms. The register provides a process through which countries voluntarily report annually on certain conventional arms exports and imports. (See ACT, September and November 2007.)
専門家会議の議長は、アルゼンチンのロベルト・ガルシア・モルタン大使が務めている。モルタン大使は、標準型の小型武器も報告の対象範囲に含める制度の改善を勧告した国連軍備登録制度の専門家会議でも、議長も務めている。国連加盟国は任意で特定の小型武器の輸出入についても年ごとに報告し、登録が行われるようになった(2007年9月のアームズ・コントロール・トゥデイ誌参照)。

Experts representing Algeria, Argentina, Australia, Brazil, China, Colombia, Costa Rica, Cuba, Egypt, Finland, France, Germany, India, Indonesia, Italy, Japan, Kenya, Mexico, Nigeria, Pakistan, Romania, Russia, South Africa, Spain, Switzerland, Ukraine, the United Kingdom, and the United States participated in the February meeting. They will meet again May 12-16 and July 28-Aug. 8, with recommendations expected later this year after the final meeting..
2月の専門家会議に出席した国は以下の通りである。

アルジェリア、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、コロンビア、コスタリカ、キューバ、エジプト、フィンランド、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、ケニヤ、メキシコ、ナイジェリア、パキスタン、ルーマニア、ロシア、南アフリカ、スペイン、スイス、ウクライナ、英国、米国

これらの国は、5月12-16日と7月28日-8月8日に改めて開催される専門家会議にも出席する。会議終了後、勧告を年内にまとめ、提出する予定だ。

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