2009年2月6日金曜日

オバマ政権、核兵器削減に向けてロシアと対話開始か

所用で忙しかったため久しぶりの更新です。
昨年、注目の核兵器のゼロ・ロジック論文を訳しましたが
その関連の動向で、オバマ政権が
核兵器の大幅削減に向けた交渉を
ロシアと開始する意向であることを伝える記事です。

オバマ政権の人事が、税金の申告漏れ問題などで
うまくいっていないことが報じられておりますが
オバマ政権で軍縮・軍備管理を担うポストも
いくつかが、まだ空席となっている状況であるため
この分野での取り組みが、やや遅れ気味の模様。

一方で、米国で盛んになっている
核兵器のゼロ・ロジックは
核兵器を使用することの道義性、ないし
兵器の性質としての非人道性に焦点を当てたものではなく
あくまで戦略ロジックであるという点を忘れてはならない。

仮にゼロ・ロジックを本当に実行に移したと考えた場合、
ゼロ・ロジックで示された第一段階としてのプロセスは
米国とロシアが、まず自国の核兵器の総数を
1000発にまで削減するというものだが
1000発という数が味噌だ。
米国とロシアで核戦力の不均衡という状態が生まれかねない。

つまり、ロシアが配備している核兵器のほとんどは
大陸間弾道ミサイルの形をとっており
総数で1000発にまで削減するということになると
ロシアが戦略的に運用できる核兵器はほとんどなくなる。

一方で、米国の場合、1000発にまで削減したところで
空(戦略爆撃機)と海(原子力潜水艦)配備の核兵器がきちんと残され
ICBMよりも有効な戦略運用が可能な形で
核兵器の保有を続けることができる。

ゼロ・ロジックは段階的な核兵器廃絶論という形を取るが
ゼロ・ロジックを突き進めた結果、見えてくるものは
通常戦力で圧倒的な優位を勝ち得た米国
……ということになるのではないか。

以下、AP通信の記事の翻訳です。

Obama admin. seeks treaty to cut US, Russia nukes
オバマ米政権、米国とロシアの核兵器削減を進める新たな条約づくりを目指す

By BARRY SCHWEID
February 6, 2009

WASHINGTON (AP) — The Obama administration, reversing the Bush administration's limited interest in nuclear disarmament, is gearing up for early negotiations with Russia on a new treaty that would sharply reduce stockpiles of nuclear warheads.
ワシントン(AP):核軍縮については、それほど大きな関心を示してこなかったブッシュ政権に対して、オバマ政権では路線を転換。核弾頭の備蓄量を大幅に削減する新たな条約づくりに向け、ロシアとの交渉を早期に開始するため、準備を進めている。

Secretary of State Hillary Rodham Clinton has notified Congress and her staff that she intends to get started quickly on talks with the Russians, who have voiced interest in recent weeks in settling on a new treaty calling for cutbacks in arsenals on both sides.
ヒラリー・ロッドハム・クリントン国務長官は、米ロ双方の核兵器削減を義務付ける新たな条約の成立に関心を示しているロシア人との対話を早急に始める意向だ。

The 1991 Strategic Arms Reduction Treaty expires at the end of the year. It limited the United States and Russia to 6,000 nuclear warheads each. The American stockpile is believed to be about 2,300 warheads, and the Russians' even lower.
米ロが1991年に調印した戦略核兵器削減条約(STARTI)は今年末に失効する。STARTIでは、米ロが配備する戦略核弾頭の総数を6000発に制限している。米国が配備している戦略核弾頭の数は2300発ほどであるといわれており、ロシアが配備している数は、それよりも少ないという。

Clinton's spokesman, Robert Wood, said the new administration was serious about negotiating reductions in nuclear weapons. A replacement treaty for START "will be put on a fast track," Wood said.
米国務省のロバート・ウッド報道官は、オバマ政権が核兵器の削減交渉に真剣に取り組んでいくことを伝えた。ウッド報道官によると、STARTIに代わる新たな条約づくりに向けた取り組みを、「急ピッチで進めていく」という。

President Barack Obama said during the campaign that he would seek verifiable reductions in all U.S. and Russian nuclear weapons. Clinton told Congress last month that deep reductions were the goal.
オバマ大統領は、大統領選の際、米ロのすべての核兵器を検証可能な形で削減していくことを目指すと訴えていた。クリントン国務長官も先月、議会で核兵器の大幅な削減を目指していくと述べていた。

Clinton has told her staff she intends to get started quickly on talks with the Russians, said an administration official who spoke on condition of anonymity because he was not authorized to speak about the subject.
この話題について話すことが許されていないため、匿名を条件に語ってくれた政府高官によると、クリントン国務長官は国務省のスタッフに、ロシア人との対話を早急に開始すると伝えているという。

Some key arms control posts in the new administration have not been filled, however, and that might slow preparations for talks.
とはいえ、オバマ政権において軍備管理を担うポストの人事を、まだ終えていない部署もあり、対話のための準備はなかなか進んでいないともいわれている。

"I can't give you a time frame when we will be able to complete a review," Wood said in an interview Thursday. In that vein, he said, the administration was "clearly committed to reducing the numbers" but has not decided how deep to slash.
ウッド報道官は木曜、インタビューに応じ、「核兵器削減に向けた取り組みについての検討をいつ終えることができるのかは教えられない」と答えた。その上で、ウッド報道官は、オバマ政権が「核兵器の削減に取り組んでいくことは明白だ」としつつも、どのくらい大幅に削減するのかについては決まっていないと述べた。

Internal talks on what position the U.S. should take in overall disarmament have begun within the State Department and with the White House, said officials aware of the discussions. Those discussions are expected to accelerate when the key posts are filled, said the officials, who asked for anonymity because they were not authorized to talk publicly.
公式に話すことが許されていないため、匿名を条件に取材に応じてくれた政府高官によると、国務省と大統領官邸が、米国がどういう立場で全面的な核軍縮を進めていくべきかについて検討する内部討議を開始したという。また、ここでの議論は、軍備管理を担う主要なポストの人事が決まり次第、加速していくことになるとも付け加えた。

While the officials said they hoped the nomination process and Senate confirmation would not take long they did not know when the administration would be ready for talks with the Russians.
取材に応じてくれた政府高官はまた、人事の任命と上院の承認にはそれほど時間がかからないだろうと見込まれているが、オバマ政権がいつ、ロシアとの対話の準備を整えることができるのかについては誰にも分からないと述べた。

Daryl Kimball, executive director of the private Arms Control Association, said "it appears that reductions down to 1,000 warheads are possible." That would be a cut of more than 50 percent on the U.S. side.
軍縮・軍備管理専門のシンクタンクであるアームズコントロール・アソシエーションのダリル・キンボル事務局長は「核弾頭の総数を1000発にまで削減することが可能であると考えられている」と指摘する。米国だけで、50%以上もの削減となる。

In 2002, President George W. Bush and Russian leader Vladimir Putin agreed on a treaty that sets as a target 1,700 to 2,000 deployed strategic warheads by 2012.
2002年にはブッシュ大統領とロシアのウラディミル・プーチン大統領が、2012年までに配備済みの戦略核弾頭を1700発から2000発程度にまで削減する戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)に合意している。(了)

0 件のコメント: